第69話

《拓人視点》


 琴音との破局騒動から一週間が過ぎ、テストが行われて俺はいつも以上に頑張った。


「んじゃ、俺達帰るわ」


「またねー二人とも!ひろくん今日どこいこっか?」


 あの二人の仲はますます深まっていて、少しだけ羨ましかった。俺らもそう変わらないけど。

 テストも終わって今度は夏休み、久しぶりにデートしてみたいなーなんて思っていたり。


「……で、拓人」


 けれど琴音の顔は凄く険しく、不満顔だった。


「はい……重々分かっております」


「全く……私が居たから良かったけどあと少し悪ければ赤点ってどういう事よ?」


 社会科や理数系はなんとか平均点近く、英語は問題なかったが現代文が壊滅的であった。


「……俺なりに頑張った結果なんだけど」


「はぁ……ここが私立の二学期制で助かったわね」


 うちの高校は他校とは違い、前期後期の二学期制だ。

 二学期制な反面、勉強と範囲が膨大になる為いつも俺は苦しんでいた。


「夏休み入るまでに現代文克服するわよ?夏休みが終わったらすぐテストなんだから」


「はぁ……俺もデートしたかったなぁ」


「今は勉強の事だけ考えなさい、そりゃ私だって夏休みは流石に、ね?」


 やだー、現代文きらいー、したくなーい、いちゃこらしてたーい。


「ちぇ、ケチ」


「頑張らなかったあんたが悪いんでしょうが!」




 ☆




 数時間後。


「うん、もう問題はないわね」


「うはぁ……終わったぁ……」


 もう無理……頭痛い……。


「ふふっ……お疲れ様」


「んっ……撫でんな」


 琴音は俺の頭を撫でながら、ピタッとくっついてくる。

 琴音も我慢してたんだなと改めて理解し、もう少し頑張ろうと思った。




 ☆




 そして夏休み前最後の登校日。

 いつもの四人と明莉、結衣で近くのファミレスに来ていた。


「ちょっと明莉!なんで貴女が拓人の隣に座ろうとしてるのよ!」


「琴音ちゃん、今日ぐらい良いでしょ!」


 何故かいきなり揉め出した。

 どちらも今回ばかりは譲れないみたいな顔をしていた。


「「あっ!」」


「二人共、今日は我慢してください」


「結衣、近い……」


 明莉は納得いってない顔をしながら最終的には諦め、琴音は頬を膨らませながら、主に俺に対して睨み付けていた。

 そして肝心なバカップルは別次元の人間になっていた。


「ねえねえひろくん、もう決まった?」


「一応は決まってるけど、まだ悩んでるのか?」


「ううん、聞いてみただけだよ?えへへ」


 ……ある意味、あいつらと一緒にならなくて良かった。

 流石に琴音も苦笑いをしていた。


「お兄ちゃんは何にする?」


「先に決めなよ、俺はあとで決めるから」


「うん、分かった」


 結衣はメニューとにらめっこをして、俺はどっちが対面席に座るか争っていた二人を遠い目で眺めていた。

 どっちでも良いからさっさと座ってくんねえかな……?


「お兄ちゃん……?どうしたの?」


「……前見たら分かるよ」


「……はぁ、まだやってる」


 仲が良いんだか悪いんだか……流石の結衣も頭を抱えていた。不意に結衣から袖を引っ張られる。


「お兄ちゃんは夏休みどこか行く予定あるの?」


「まだ決めてないけど久々にデートしたいなとは思ってる」


「そっか、あのねお兄ちゃん……非常に言いづらいんだけど……」


 結衣は珍しく顔を赤くしていて、小さな手が震えていた。


「私ね……告白、されたの……クラスの男の子に」


「それで返事は?」


「まだしてない……恥ずかしくて逃げちゃったから」


 恥ずかしくて逃げた、か。結衣らしい。その男の子には同情するしか出来なかった。


「土曜にデートのお誘い受けちゃって……何したら良いか分かんない……」


「行ってきた良いじゃん、そこで自分の気持ちに気付けると思うから、俺がそうだったように」


 俺は結衣の頭を撫でて、優しく微笑んだ。


 俺も最初は好きでもなんでもなかったけど、琴音と出逢ったことで色々思い出して、結果付き合うようになった。

 結衣とは形は違えど、ここまで悩んでる姿は俺と一緒。


「だから、素直になって自分の想い伝えてこい」


 俺は兄として、結衣にも幸せになって欲しいから。

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