第68話
《琴音視点》
「んっ……あれ、私いつの間に……ん?」
(誰かに右手を握られてる……?)
そのまま私は右側に視線を動かすと、拓人が手を握りながらすやすやと眠っていた。
生まれて初めて見る拓人の寝顔、今拓人はどんな夢見てるんだろう?
「ふふっ……可愛い」
いつも無愛想であまり表情を変えない、運動中はいつも以上に真剣でどんな状況でも冷静、でも二人きりだと優しく微笑む彼だけど、寝顔は子供みたいに少し幼さが残ってて可愛かった。
「……お腹空いた」
ずっと寝てたせいでちょっとだけお腹が空いてきた。
まだちょっと熱はあるけど、さっきよりはだいぶ楽になっている。明日になればこの風邪も治るだろう。
「んっ……あ、おはよ琴音……んぅっ……」
まだ眠そうな顔をしてるのに目が覚めた拓人の姿は、子供みたいでまた一段と可愛かった。
必死に起きようとして目を開けたりしてるけど、まだ眠いのかなかなか起きれないようだ。
「紅音さん……もう食べれないっすよ……」
「むっ……」
……なんでここであか姉の名前が出てくるのよ!
「あでででっ!!……あれ?琴音?何で怒ってんだ?」
「ふんっ……!」
あーなんかイライラしてきた、もう許さないんだから!
「……なんかごめん、俺が変なこと言ったから怒ってるんだよな?」
私はこくんと頷く。そのまっすぐなその瞳が私には直視出来ず、目を逸らす。
「そっか、本当ごめん……琴音お腹空いてる?」
もう一度私はこくんと頷く。
「っていうか拓人!さっきの寝言何なのよ!」
私は不意に思い出して、ちょっと睨み付けた。
「私というものが居ながら他の子の名前…しかもよりによってあか姉ってどういうことなのよ!」
「えーっと……琴音?俺本当に言ったの?」
拓人はちょっとだけ自分で言ったことが信じられないという顔をしていた。
「そうよ……私が居るのに」
「ごめん…は、恥ずかしかったんだ……琴音と一緒になってる夢を見てたから……」
「えっ……」
私は拓人の方へと顔を向けると、珍しく顔が赤かった。
「う、うぅ……めっちゃはずい……」
「恥ずかしくて咄嗟にあか姉と言った、嘘じゃないのね?」
私は拓人にそう尋ねると、小さく頷いた。
なんだかその反応が可愛くて、おかしくて、思わず笑ってしまった。
「わ、笑うな……!」
「ご、ごめんなさい……!ふふっ……おかしくって……!」
拓人は拗ねて、目線を合わせてくれなくなった。
……ちょっと言いすぎちゃったかな?
「私は嬉しかったの、拓人にそう言って貰えて」
「……」
「私拓人が一番大好きだから、だから……」
ずっと私を見て?って言おうとしたけど、なぜか言えなかった。
やっぱり喧嘩した後なのと、よりを戻したばかりだから前みたいに簡単に言えなくなっていた。
「…言いたいことは分かるから無理しなくていいよ」
「うん…ふふっ、なんか今の恋人っぽいね」
「だな…そういやお粥あるけど食べる?」
そういやそんなことも言ってたっけ…
私は体を起こしてお粥を食べるためにあーんと口を開けてみた。
「……いや、そこまで元気なら食べれるでしょ」
「むう……良いじゃないちょっとぐらいあーん」
「はぁ……わがままだなぁ…うちの彼女は」
なんだかんだ言いつつ、拓人も結構乗り気じゃない。
「あむっ…美味しい、拓人が作ったの?」
「いや、紅音さん……かな?なんか作り置きしてあったから」
「そっか、あとでお礼言わなきゃ」
私はお粥を全部食べきり、風邪薬を飲んだ後、もう一度横になりそのまま深い眠りに落ちた。
翌日私は全快し、あか姉に今までのお礼を言ってから普段の日常へと戻っていった。
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