第66話

《拓人視点》


 ベッドの上で膝を抱えながら、小さくなっていた。


「みゃー」


「……五月雨か、おいで」


 俺は五月雨を抱き抱え、放課後の事を思い出していた。


「……俺どうしたら良いんだろうな」


 五月雨はじっと俺の顔を見つめている、すると俺から離れていっていつもの特等席で外を見始めた。


「謝ってこい、か……」


 それが出来てるなら今こんなに落ち込んでねえっつうの。


「……でも明日謝ろう、許して貰えるか分からないけど」


 でもやるしかないんだ、例え関係がなかったことになったとしても。




 ☆




 翌朝俺はいつもより、早めに家を出て学校に向かった。

 まだ誰も居ない自分のクラスに入って席について、イヤホンをしながら外をずっと見ていた。


 時刻が八時十五分になるまでずっと外を見てたけど、結局琴音は来なかった。

 俺は自分の席から離れ、屋上に向かった。


「……はぁ」


 空は雲一つもない良い天気だったが、俺の心は昨日の雨のように暗かった。


「たっくん、どうしたの?」


 声がする入り口の方を見ると明莉が居た。


「結衣ちゃんから少しだけ聞いたよ、別れたんだって?」


「……うん」


「そっか……」


 結衣が知ってるということは、あいつらにも少なからず質問攻めされるのが目に見えて分かった。

 なんか戻りたくねえな……


「たっくんはまだ……琴音ちゃんのこと、好き?」


 俺は頷いた、やっぱり忘れられるわけがない。


「っ……そっか」


「そういうお前は……まだ俺の事諦めきれないんだな」


「当たり前じゃん、初恋の人だもん……でも」


 でも?


「好きな人には幸せになって欲しいから、私は付き合えなくていいの……約束したから」


「約束……か」


「二人の間に何があったか知らないけど、二人には幸せになって欲しいの」


 幸せ……


「私戻るね?無責任に聞こえるかもしれないけど頑張って」


 そう言い残した明莉は屋上を後にした。

 屋上に残った俺はずっと考えた、俺にとって琴音の存在とは何か、琴音にとって俺の存在とは何か。


 始めから解りきってた答えに俺は気付いて、教室に戻った。


「あ、おかえ……ってたっくん?!」


「ありがと明莉、あとはよろしく」


「え、ちょっ……行っちゃった」


 俺は荷物をまとめて琴音の家に向かった、これから授業が始まるというのに。




 ☆




「はぁっ……はぁっ……」


 俺は全力疾走で琴音の家に向かったせいか、息が上がっていた。

 息を整えて少しだけ深呼吸をしてインターフォンを押す。


『ごほっ……ごほっ……どちら様ですか?』


「俺だ……」


『拓人…!?なんでここに……?』


「話がしたい……あと謝りたい」


 ガチャと玄関が開く音がして、琴音は凄い熱で今にでも倒れそうな具合だった。


「悪かった!俺のせいで……」


「とにかく入って……立ってるのも、やっと、なんだから」


「で、でも……」


「お願い…!傍に居て……」


 琴音は今にでも泣き出しそうな顔をして俺に抱き着いてきた。まるで昨日の事を後悔しているような感じだった。


「ごほっ……ごほっ……ひゃっ」


 俺は琴音をお姫様抱っこで琴音の部屋まで直行した。


「っ……!」


 顔は熱のせいなのかよく分からないけど、酷く赤かった。

 でも琴音は精一杯の力で、シャツを掴んでいた。


「琴音……」


「早くベッドに……連れてって、寒い……」


「あ、あぁ」


 俺は酷く弱った琴音を部屋まで送った。

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