第64話

《琴音視点》


 放課後、私は先生に呼ばれて職員室で先生の手伝いをしていた。良いように使われちゃってるけど。


「本当にごめんなさいね、本来なら生徒にやらせることじゃないのに……」


「気にしてませんよ、好きでやってる事なんで」


 先生は申し訳なさそうな顔をして、私は先生の補佐をしていた。拓人今頃何してるんだろ?寂しがってないかな?


「上野さん、変わったね」


「え?」


「芝崎君のことかな?噂は耳にしてるわ、付き合ってるんだってね」


 自分から言うのはもう慣れたけど、改めて言われるとちょっと恥ずかしいっていうか……ドキドキするっていうか……


「顔赤いわよ?本当、好きなのね彼の事」


「……はい、大好き…です」


「大事にしなさいよ?あ、今日はもう良いから彼と一緒に帰りなさいな」


 先生はにこやかに笑っていた、怒られるのかなって一瞬身構えちゃった。

 先生、拓人の事は大丈夫ですよ。先生のようにちゃんと愛してますから。




 ☆




 ただ先生と一緒に居た時間が長すぎたせいで、日が暮れていた。拓人待ってるかな……。

 そう思って自分のクラスまで走ってた。


「はぁっ……はぁっ……飛ばしすぎちゃったわね」


 拓人が居ると思ってドアに手を掛けたら、二つの影が重なりあっていた。


「えっ……?」


 拓人ともう一人居るのは誰?私の拓人に何してるの?

 よく見ると二人は楽しく笑い合っていて、非常に楽しそうだった。

 よく見ると女の子で、その子が拓人にキスをしようとしていた。


「……え」


 私は頭の中が真っ白になって、私は走ってその場から逃げた。

 嫌だ、見たくない。



 ☆



 どれぐらい走ったんだろう、もう分からない。

 誰も居なくてちょっと薄暗い場所で、気味が悪いけど膝を抱えて座り込んだ。


「誰なのよあの子……」


 まだ浮気とかそういうのが分かってないから断定できないけど、あんだけ楽しそうにしてるの見たことない。

 また私、ヤキモチ妬いちゃったのかな…?折角先生に大事にしろって言われたばかりなのに……。


「拓人のバカ……」


「バカで悪かったな、琴音」


「えっ…?拓人?なんでここに?」


 何で追ってきたのよ……あの子とイチャイチャしてたら良いじゃない。


「一瞬見えたから、泣いて走ってるのが」


「……一緒に居たあの子はどうしたの?」


「分からない、もう帰ったかもな」


 何よそれ……私と居るよりずっと楽しそうにしてたじゃん……何で私を追ってくるの?


「帰ろ?事情話すから――」


「事情って何よ……」


「えっ?」


「随分と仲良かったじゃないあの子と……私の気も知らないで良い度胸ね」


 何言ってるの私は…!


「だから話すって言ってるだろ」


「何を?あの子と付き合うこと?」


 違う……止まれ私!


「大森さんはそんな人じゃない!」


「へえ……あの子の肩持つんだ?」


 もう止めて!こんなことで喧嘩したくない…!


「そ、それ……は」


「そんなに言いづらいこと……?」


「……」


 もう良いでしょ?早く謝って話聞きなさいよ私!


「……別れましょ、私達」


 何を言ってるの私…?


「え……?」


 拓人今にでも泣きそうじゃない……今ならまだ―――。


「分かっ…た……」


 嘘…?嫌……絶対に嫌、別れたくない!


「……今までありがと拓人」


 まだ手を伸ばせば届く距離なのに、それすらせずに私は彼の傍から離れた。


「くそがっ…!」


 振り返って謝ろうとした時、拓人は逃げるように走り去った。私は取り返しのつかない愚かなことをしてしまった。

 それに気付いた私はその場で立ち尽くし、突然降りだした雨と一緒に大声をあげて泣いていた。

彼の名前をただひたすら呼び続けながら――。

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