第62話

 翌日、私は拓人の為にお弁当を作ってみた。

 好物とかは結衣ちゃんとかに聞いて、なるべく偏らないようにちゃんと作って美味しいと言って貰いたいなと思いながら、学校に向かっていた。


「おはよ琴音」


「おはよう拓人」


 私は拓人の左腕に絡み付き、学校に向かった。

 最初の頃は凄く恥ずかしくて、噂されたけど今はもうそういったことはない。

 けど拓人は相変わらず余裕で、ちっともドキドキしてない。


「むぅ…もうちょっと照れてくれても良いのに…」


「慣れちゃったのは仕方ないでしょ……」


 私はずーっとドキドキしてるのに、なんか卑怯。


「にしても今日は遅かったけど、何かやってたの?」


「拓人の為にお弁当を作ってみたの、そしたら思ったより時間掛かっちゃって」


「ありがと、楽しみにしてます」


 そう言いながら私の頭を撫でて優しく微笑んでいた。


「う、うん……」


 私は恥ずかしくで俯いてしまった、そこで不意打ちはずるい。




 ☆




 数十分歩いて学校に着くと、もう一組のバカップルに出会った。


「あ、琴音おっはー」


「……なあ裕貴、前よりも距離近くね?」


「気のせいだって、な?美咲?」


 私達は顔を見合わせて、小さく溜め息をついた。

 私は流石にそこまでベタベタくっつかないからね、手を繋いだりたまに腕組んだりはするけど。

 なんて考えてると拓人に肩を叩かれた。


「……いや琴音も人の事言えないからな?」


「なっ……勝手に心を読むな!バカ!」


「やっぱりしてるんじゃーん、このこのー」


 なんで今この場で言うのかな!?皆居るんだよ?!ほら早速噂されてるし!


「……私先行ってるから」


「ちょっ……裕貴また後で!琴音!」


 私は無視してそのまま昇降口まで早歩きで向かった。




 ☆




 昇降口に着くと拓人に腕を掴まれた。


「さっきは悪かった…って琴音?」


「何よ……?」


「いや……なんでもな――っ!」


 私は誰にも見えないように引き寄せてからキスをした。


「皆の前で言うな、バカ……」


「ご、ごめん……」


 一瞬の事だったからか、拓人はその場で立ち尽くしていた。私は逃げるように自分のクラスへ向かった。




 ☆




 クラスに着くと私は自分の席について、さっきの行動を思い出して顔を埋めていた。


(やっちゃったああああああ……誰にも見られてないよね?)


 未だにドキドキしてるこの鼓動を抑えようとしても、拓人のあの優しい顔がちらついてむしろ速くなっている。

 駄目だ、一度意識すると頭から離れない…!


「~~~~~っ!!」


 今まではこんなことなかったのに、今日の私はおかしい。

 昨日変に意識しすぎたからせいかしら…?もしそうなら平常心よ平常心……落ち着きなさい私…!


「琴音本当に今日はどうした?いつもと雰囲気違うんだけど……」


 いつの間にか拓人が目の前にいて、完全にフリーズしてしまう。拓人からしても今日の私はおかしいようだ。


「……言われなくても分かってるわよ、今日の私がおかしいことぐらい」


「そう、んじゃもう少しだけ傍に居ようかな」


「……好きにしなさい」


 拓人はまだ来てない美咲の席に座って、私と同じようになって音楽を聴きながら私の顔を見つめてくる。

 時折頭を撫でたり、髪の毛を触ったりしながら。


「何聴いてるの?」


「んー、色々」


 色々って……好きな曲でも聴いてるんじゃないの?と言いたくなったけど、拓人の読んでいる小説からすると、本当に何でも読むから、これといった決まったジャンルがない。


「一緒に聴く?」


「それより美咲怒ってるわよ」


「へっ…?あ、川島さん」


 本当にいつの間にかあのバカップルが到着していた。


「ここ私の席なんですけど、ひろくんなんとか言ってよ」


「あはは……拓人戻ろうぜ、時間来てるし」


「ちょっとひろくん!」


 今日も今日とて、いつもの二人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る