第61話

《琴音視点》


 私の肩に拓人の頭があって、私は固まっていた。

 初めて間近で拓人の寝顔を見てドキドキするし、顔も熱くなってるし、頭がクラクラする。

 普段格好良い拓人も寝顔は子供そのものだった。


「…………本当、ずるい」


 五月雨ちゃんは丸くなって拓人と一緒に寝ている。

 まだ小さいからきっと遊び疲れたんだろう。


「お兄ちゃ~ん……?あれこと姉?」


「しぃ~…………今寝たところだから」


 結衣ちゃんが帰ってきたってことは、一応話し合いは終わったのかな?それとも私と同じように心配だったのかな?


「最近お兄ちゃんずっとこの子にべったりだったからちょっと心配してたんです、上手くやれてるかなって」


 やっぱり結衣ちゃんも同じ気持ちだった。

 長いことお互いが避けるように行動していたから、結衣ちゃんにも心配を掛けてしまった。


「でも今日の話し合い?で、お兄ちゃんでも嫉妬することあるんだなーって」


「本当によく見てるわね、打ち明けられるまで全然気付かなかった」


 いくら一途に想っても、分からないこともある。

 今日話し合って、お互い初めて気付けたんだから。


「んんっ……」


 私はびっくりして、頭の中が再び真っ白になりかけたが、拓人が苦しそうに顔をしかめていて、手が震えていた。

 息づかいも少し荒い、無意識に私は拓人の手を握った。


「すぅ……すぅ……」


 安心したのか少し笑っていた、その顔を見た私はちょっとドキッとしてしまった。

 段々と顔が熱くなっていくのが分かった。


「全く……不意打ちは辞めなさいよ……バカ」


「こと姉照れてる?」


「照れてない!」


 恥ずかしさを誤魔化す為に、つい大声を出してしまった私は慌てて口を抑えたけど、少し遅かった。


「んんぅ……あれ結衣お帰り」


「ただいまお兄ちゃん、お幸せに~」


 結衣ちゃんはそのまま部屋を出ていってしまった、どうしようまともに顔が見れない…!


「んーっよく寝た、琴音…?なんで顔逸らしてるの?」


「え、えと……それ……は…………」


「それは?」


 な、何か言い訳を考えないと…!見惚れてたなんて言えるわけないし……。えっ――?


「たく……と?」


「俺……夢見てたんだ」


「夢……?」


 咄嗟に抱き締められて頭の中真っ白で顔が真っ赤な私と、なんだか明るい顔をしている拓人。


「……うん、琴音と夏祭りに行く夢」


「夏祭り?」


「俺人混みが苦手で、毎年ずっと家で過ごしてるんだ」


 そういえば幼稚園の頃から拓人はずっと一人だった、でもそれと今の夢が何か関係あるんだろうか?


「琴音と一緒に行ってみたいなって、浴衣姿見ていたいなって思った」


「拓人……」


「デートらしいデートをまともにしてなかったし、ちょっとでも彼氏らしいことしたいなぁ…なんて」


 この梅雨を乗り越えたらテストがあって、夏休み。

 季節的には丁度良いし、私も彼女らしいことしてあげたいし、もっともっと拓人の事知りたい。

 だから私は笑顔でこう答えた。


「私も…彼女らしいことしてあげたい、お弁当とか」


「楽しみにしてる」


「だからその顔は反則…でもそう言って貰えて嬉しいかな」


 私達はこれから、どんな道を歩むのだろう?この先の事なんて誰も分からない。

 でもだからこそ今この幸せな時間を、好きな人……拓人と共有していたい。


「あはは、大好きです琴音」


 私にとって拓人は大切な人であり、好きな人でもあり、かけがえのない存在。


「わ、私も……大好き、よ」


 私は彼を、拓人をこれからずっと支えていきたいと心に誓った。

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