第60話

 俺と琴音は公園のベンチで、幼少期の頃の話に花を咲かせていた。


「懐かしいわね、昔よくここで遊んだっけ」


「だな、あの時は本当に楽しかったな」


 今はもう遊具だったり、昔の面影はなくなってしまったけど、それでも想い出の場所として記憶している。

 琴音は優しく微笑んでいて、心が暖かくて、思わず顔を逸らしてしまう。


「顔真っ赤ね?」


「……うるさい、琴音だって赤いぞ?」


「わ、私はいいの…!」


 そう言いながらもぴたっと身体をくっ付けて、耳まで赤かった。恥ずかしさのあまり俺達は俯いても手は繋いでいた。

 俺はあるものを通学用鞄から取り出し、あるものを琴音の頭に付けた。


「な、何するのよ?こら撮るな」


「うん、やっぱ似合ってる」


「……」


 凄い目で睨まれてるけど気にしない、だって予想以上に似合ってるんだもん。

 あの琴音に猫耳を付けさせて、一人で盛り上がっていた。

 ちなみにこの猫耳は俺のじゃなくて、結衣のでちゃんと本人にも許可は取っている。


「にゃーってやって、にゃーって」


「こんなとこでやるわけ無いでしょ!」


 強い口調で否定はしてるけど、猫耳外さねえのはどうかと……なんだかんだで気に入ったのは予想外だった。

 琴音は立ち上がって、俺を引っ張って何処かへ向かっていた。猫耳を付けたまま。


 引き連れられて到着した場所は、俺の家だった。


「なんで俺の家…?」


「その道撮るならどっちかの家でしょ、それに……久し振りに五月雨ちゃんの顔見たかったってのもある」


 服の袖を摘まんで、もう片方の手で猫耳を抑えながら恥ずかしかったせいか、俯く。

 俺はその光景をしっかりとカメラで抑えた。


「だから撮るな!」


 流石に怒られた。可愛いから撮ったのに。




 ☆




 俺の部屋に着くや否や、五月雨に近付いて猫になりきっていた。思ったよりノリノリじゃねえか!

 俺は琴音に冷たい視線を送っていると、それに気付いたのかはっとしてこちらを向いた。


「ち、違うからね?猫耳付けてるからとかそんな理由じゃないんだからね?」


 自分から自白してんじゃん……


「みゃーお」


「あっ……」


 俺の存在に気付いて、琴音の腕から飛び降り俺の足元で身体を擦り付けていた。あぁもう猫は本当に可愛いなぁ……

 一方で琴音はリスのように頬を膨らませて、羨ましそうに睨んでいた。


 猫になりきっていた琴音は完全に拗ねてしまった。


「拗ねるなって琴音」


「拗ねてない……」


「完全に拗ねてんじゃん……また五月雨にヤキモチですか」


 図星だったのか、ぴくりと動いて動揺していた。


「今日は琴音が相手していいよ、ここのところずっと俺一人で遊んでたし」


 俺は五月雨を抱き抱えて、琴音の傍に座る。


「言っとくけど妬いてなんかないからね!」


 口調は強かったけど、顔は完全に緩みきっていた。


「みゃー」


「にゃー、ふふっ可愛い……」


 俺は精神的に疲れたから、睡魔が襲っていた。


「ふあぁ~あ……ごめんちょっと寝る……」


 俺はそのまま意識を夢の中に飛ばし、琴音の肩に頭を乗せた。

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