第59話 初めての
《拓人視点》
裕貴が琴音に川島さんの誕生日について話し合ってる間、俺達は飼い猫になった五月雨について話し合っていた。
途中俺は落ち着きがなくてチラチラと琴音の方を見てしまっている。分かってるんだけどなんか落ち着かない。
「……お兄ちゃん大丈夫?さっきからずっとこと姉ばっか見てるよ?」
「っ……見てない」
何なんだよこの気持ちは……裕貴は何も悪くねえのにこんな自分にイライラしてしまう。
「……ごめん、俺帰る」
皆は突然の事で混乱してる中、俺は足早に喫茶店を出た。琴音が心配で必死に呼び止めているのにも全く気付かず。
☆
どれぐらい歩いたのか分からないし、自分が今何処に居るのかも分からない。気付けば幼少の頃に遊んだ公園に着きベンチに腰掛け、小さく項垂れていた。
「はぁ……あーくそっ!本当何なんだよこの気持ちは!」
楽しそうに話をしている琴音の顔を見てから俺は、何処かおかしい。急に胸が苦しくなる。
黒い靄みたいなのが掛かっていて、手に力が入る。
すると誰かの足音が近付いていた。
「はぁっ……はぁっ……拓人急にどうしちゃったのよ?」
「……………………分かんない、自分でも何でこんな事してるのか分かんない……」
俺は泣きそうな顔を琴音に見られたくなくて下を向く。
「とりあえず、何があったのか話して?」
そう言いながら隣に座り、優しく両手を包んでくれた。
「……琴音と裕貴が川島さんの誕生日で話し合ってるだけって分かってるはずなのに、なんかイライラして…」
「続けて?」
「黒い靄みたいなのが……覆ってきて……一気に不安になって……そしたら急に琴音が遠くに感じて……ぐずっ……」
もう限界だった、俺はみっともない所を見せて彼女の事すら信じられない彼氏になってしまった。
そう思うと涙が止まらなくなって、自分に腹が立った。
でも琴音は違った、まるで分かったような子供をあやす母親のような感じで俺を優しく抱き締めてくれた。
「そう……私もね?拓人と出逢ってから毎日ずっと不安だったのよ?」
あの琴音が?一体どういう事だ?
「拓人は格好いい上に、誰にでも優しくするから女の子が寄ってくるの……それに今は五月雨ちゃんの相手ばかりしてるから私だって不安だったのよ?このまま別れちゃうんじゃないかって」
「嫌だ…!別れ……たく、ない……」
こんな俺の事を心から想ってくれる女の子なんてもう居ない、慕ってくれる人も居ない。でも琴音だけは違った。
「私だって嫌よ、他の子と一緒に居る姿なんて見たくないもの……それに、さ」
琴音は照れながら、俺に身体を預けてきた。
「好き…だから、不安になっちゃったんだと思うの」
「好き…だから…」
「それに……そ、その…嫉妬…してくれて、あ、ありがと」
俺は久しぶりの琴音と話して、この気持ちの正体に気付けた。
「……ありがと琴音、そんなに俺の事考えてくれて……愛してる」
ぼふっ、って聞こえるような感じで顔を真っ赤にして、左腕に抱き着いて照れながら微笑んでいた。
今まで気にしないようにしてきたけど、柔らかい感触が左腕に襲ってきて、分からせるように押し付けてきていた。
「……あのさ琴音、当たってるんだけど…」
「……ふふっ、何が?」
「む、胸が……」
高校生にしては大きすぎるその大きな胸に俺は翻弄されかけていた。や、やめろ!押し当てんな!
気付けば俺は、無意識に琴音の胸に視線を注いでいた。
「もう……触ってみる?」
「えっ?!」
「冗談よ冗談……まあいづれ触られるけど……んっ」
最後の方は小さすぎて聴こえなかったけど、もう何度目か忘れてるキスをしていた。
好きだからこそ不安になることもあるんだと、琴音から教わった。
「私も拓人の事、愛してる……大好きよ拓人」
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