第58話

 明莉ちゃんは五月雨が何の事か分からず首を傾げている。


「あーそういや明莉は国語が壊滅的だったような…?」


「私なりに頑張ってるんだけどなぁ…」


 拓人はこの間の課題で、色々と教えたのとデート以外の時に教えてるから大丈夫なはずだけど、明莉ちゃんがそこまで悲惨だったなんて知らなかった。


「流石に五月雨って言葉ぐらい知ってるよな…?」


 不安なのか明莉ちゃんに聞いてみた拓人と、全く分かってない明莉ちゃん。


「雨と関係あるの?」


「明莉ちゃん、なかったらそもそも出ないわよ…」


「まあともかく、名前は五月雨で良いんだよな?」


 そういや今はこの子の名前を付けてあげるんだった、危ない危ない…


「ええ、五月雨ちゃーん?」


 反応無し、飼い主じゃないから反応しないのかな?

 続く明莉ちゃんも呼ぶが、無反応。そして飼い主の拓人。


「おーい五月雨~?」


「みゃ~」


 飼い主の言葉に反応しただけかと思われたが、拓人の膝の上に乗って再度鳴いている辺り気に入ってるようだ。


「よーしよしよし、これからよろしくな五月雨」


「にゃー」


 この子の名前は五月雨になった、甘えん坊で可愛いわね。




 ☆




 五月雨ちゃんが拓人の家にやってきて、三日過ぎたある日。

 私はというと今日は美咲に相談があると言われて、いつもの喫茶店に来ていた。

 拓人とのメッセージのやり取りが全部猫関連なんだけれど、時折可愛い写真送ってくれるからなんだかんだで許しちゃってる自分がいる。たまにはデートぐらい誘ってくれても良いのに……。


「……で?話って何?」


「最近ひろくんの様子がおかしいの…なんか避けられてるというか……琴音もそういうこと無い?」


「……………………そういや最近前以上に全然構って貰えなくなったわね、猫のせいで」


 それにあの二人でよく話し合ってるような気もする、あの二人は前から友達だから気にもしなかったけど。

 拓人と裕貴くん、それに明莉ちゃんの三人でよく話してるのも目にする。私達は彼らと席が遠いから仕方ないけどもちょっと羨ましい。


「猫?芝崎君猫飼ってたんだ?」


「ああ、三日程前に捨てられてた猫を拾ってきて飼ってるみたいなの……そういやあの日から全然会話らしい会話してないわね……」


 あの三人がまた仲良くなっているのにも合点がいく。

 最近ずっと写真送ってくるし、なんならアイコンが猫とのツーショット、私拓人と一緒の写真撮ったこと無いのに…!


「…?琴音?何怒ってるの?」


「怒ってないわよ、ちょっとムカついただけ」


「……いやそれ怒ってるって言うの」


 あの子猫といっつもイチャイチャして……私にもさせろ!もっと私にもしろ!


 なんて考えてると、誰かが来店したようだ。


「げっ……美咲」


「ひろくん?!な、なんでここに…?」


「明莉、押すなって!結衣も!」


「お兄ちゃん!早く席つい……て?」


 な、なんだこの空気は…?皆それぞれ驚いて固まってしまっている。

 私と美咲、拓人と裕貴くん、明莉ちゃんと結衣ちゃんが同じ喫茶店で出会うという偶然が起きてしまった。


「これは……まずいな裕貴」


「だよな……よりによってあの二人の前だからな…」


「何よ?私達の前じゃ駄目な話しでもあるの?」


「…出来れば美咲には内緒にして欲しい」


 裕貴くんが小声で、美咲には聞こえないように耳打ちしてきた。美咲は拓人と何やら話し合っているし。


「どういうこと…?」


「どうもこうももうすぐあいつの誕生日だろ……?」


 あっ……そういえば美咲って六月誕生日じゃん!

 すっかり忘れてた…親友なのに不覚だわ…!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る