第56話

 無事に家に着いた俺は傘を閉じ、子猫が濡れていないか確認した後家に入った。


「ただいまー」


「お帰りーお兄ちゃん」


 制服姿で完全にだらけきってテレビを見ていた結衣。

 こいつまたお菓子ばっか食べて…


「みゃー…?」


「ん、猫?!」


 結衣は飛び起きて鞄の中にひょこっと顔だけ出ている子猫と目が合う。

 子猫は小さく鳴き、鞄の中に身を隠した。


「はぁーあ、可愛い…ねね後で触らせてよ!」


「後でな」


 俺はタオルを持って自室へ向かった、結衣もついてきたけど。


 部屋に入った俺は鞄を置いて、新しいタオルを子猫へ。

 ほんの少しだけ濡れていた身体を拭いた後、結衣は子猫とじゃれていて俺は椅子に座ってパソコンで猫について調べていた。


「やっぱり飼うとなると結構居るんだな…おっと」


 気付いたら子猫が俺の太ももの上に乗っていて、丸くなって寝ていた。

 結衣はちょっと残念そうにしていたけど、自分のスマホで子猫を撮っていた。


「随分とお兄ちゃんに懐いてる、まるでこと姉みたい」


 琴音が猫ねぇ…?どっちかというと犬に近いような…甘えてくる時凄い尻尾振ってるように見える。


「あ、そうだ…この写真こと姉に送ろうっと」


 止めようと思っても既に送っていて、すると何故か俺のスマホが震えた。


『可愛い子猫ね、明日遊びに行こうかしら?なんて』


 俺は二つ返事で返し、優しく撫でていた。


 まさか猫を巡ってあんなことになるとは知らずに




 ☆




 翌日、琴音と共に我が家に帰宅、そのまま自分の部屋に直行した。

 部屋のドアを開けると、窓の外を見ながら尻尾を左右に振っていた。


「ふふっ…可愛いわね」


「まだ小さいからな」


 俺は鞄を置くと、猫は俺に気付き甘えた声で俺にすり寄ってくる。


「はいはい、遊んで欲しいのか?よっと」


 俺は猫を抱き抱えて琴音の傍に猫と一緒に近寄り、触らせようとする。

 琴音が手を伸ばしたその時、猫はプイッと顔を背けていた。



《琴音視点》


 拓人は優しく子猫を抱き抱えて、私の傍に来て触ろうとして手を伸ばした時、何故か嫌われた。

 最初は驚いたけど、よく子猫の顔を見ると勝ち誇った顔で拓人に甘えていた。


 なんかよく分からないけど、腹が立った。

 拓人も拓人で、子猫にゾッコンだった。


 そういや今日話し掛けても上の空だった理由ってこれ?

 そう思うとますます拓人を取られたくないと思うようになった、たかが猫相手に。


「……琴音?」


 これまでに何度もヤキモチはあったけど、ここまで寂しく感じたのは初めてだった。


「少しぐらい構いなさいよ…バカ」


 私は拓人の彼女なんだから甘えたって良いよね?誰にも取られたくないし、もっと甘えたい……。

 でも変な意地というか、プライドみたいなものが邪魔をしていつもみたいに素直になりきれない。


「……えっ?んんっ……」


 拓人に突然頭を撫でられた、気持ちいいけど自分の顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。

 これ駄目な奴だ、にやけちゃう……えへへ。

 今ものすごいだらしない顔しちゃってる…はうぅ…!


「にゃー」


 拓人に向かって鳴いてるのかと思えば、私の元に来て身体を擦り付けていた。

 か、かわいい……!


「にゃんにゃん?ふふっ、可愛い…」


 すると撫でている手が止まっていた。


「拓人…?どうしちゃったの?」


 よく見ると顔が真っ赤だけど、どうしちゃったのかしら?

 頭から手を離してそのままそっぽ向かれてしまった。


「いつもより可愛い…なって、って何言ってるんだ俺…」


「っ~~?!」


 か、かわ……!?

 面と向かって可愛いって言われるのまだ慣れてないせいで、更に赤くなっていくのが分かった。


「にゃー?」


 子猫が私達を見ながらまた鳴いて、私はなんかおかしくてつい笑ってしまった。

 それにつられて拓人も笑っていた。


 なんか恋人っぽいな、なんて思いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る