第51話
あの後、俺はリハビリを受けている。
倒れて一週間程度だったのが幸いして、そこまでキツくはないけど手と腕の震えだけはどうしても治まらなかった。
今日のリハビリが終わって、病室に戻ろうとした時に制服姿の琴音と渡辺さんが来ていた。
「拓人お疲れ様、どう?順調?」
「他は問題ないけど、どうしても手と腕がね…んで二人はどうしたの?珍しい組み合わせだね」
「あっ…えと…」
チラッと琴音に視線を向けて、すぐに戻し俯いて縮こまっていた。
琴音に何か言われたのだろうか、それとも罪悪感なのかは分からない。
「すいませんでした!まさか倒れるとは思ってなくて…」
「っ…まあご覧の通り、まだ完全復活とは言えないけどあまり気にしないで?」
「本当にごめんなさい…」
俺は震える腕と手を彼女の頭に乗せ、琴音の目の前で撫でた。
まあ琴音は驚きながら羨ましそうに殺意の視線を俺に向けてるけど、そんなことは気にしない。
「逆に言えば、君が言ってくれなかったらずっと引きずっていたと思う。ありがとう」
「は、はい…」
彼女は恥ずかしそうに俯き、顔が真っ赤だった。
彼女の頭の上に乗っている手が琴音によって、退かされる。
「あっ…」
「あなた、もういいでしょ!拓人は私のか、彼氏なの!」
琴音は腕に抱き着いて頬を膨らまして彼女を牽制する。
かなりご立腹の様子で、顔を合わせようと視線を移すと睨まれ抱き着く力が入った。
「拓人も拓人よ…バカ」
「あーはいはい、後で甘え…や、止めろ!う、腕!折れる!折れるから!」
「ふんっ…!」
相変わらず俺にご執心なことで、まあ口に出したらこれ以上酷くなるから言わないけど。
「それでは私はこの辺で…先輩方お幸せに、学祭行きますね」
「拓人の時に来ないでよ?」
「いーえ、先輩の姿がメインですので!それでは」
学祭で何があんの?なんか俺だけ蚊帳の外なんだけど…
「…なあ琴音、学祭何するの?」
「とりあえず…部屋に戻ってからで良い?」
琴音のそう言われて、病室に無理矢理連れ戻された。
☆
「はぁ?!執事姿で喫茶店!?」
「私は、メイド姿なんだからいいでしょ…?」
「ちなみにだけど、それは俺達だけ?」
つーか、なんでそんなことになってるんだ…?発案者誰だよ全く…
「美咲達もやるわよ、というより言い出しっぺがあの二人だし」
なんだろう、一気に納得しちゃった。
「美咲はやりたくなかったらしいけど、裕貴くんがね」
「あー…うん、あいつそういうの好きだし、うん」
だからってなんで俺まで…そういう知識あるにはあるけど
「ごめんなさい、私が見たいなんて言っちゃったから…」
「で女子が噂流して収拾着かなくなったわけか…はぁ」
通りで昨日の結衣といい、さっきの渡辺さんといい俺に対する目線が普段と違ったんだな…
「俺やらないから、言っとくけど病み上がりだからな?」
「そこをなんとか!全学年の女子とOG、女性教師まで期待しちゃってるから!」
ふっざけんな!なんでそんなことになってんだ!?折角の学祭がこんなのじゃ回れねえじゃねえか!
「絶対にやらん!というか当日休んでやる!」
「私のメイド姿を他の男子に見られてもいいって言うの?!」
「ぐっ…それは…」
なあ琴音さん、それは卑怯ですよ…断りづれえ上に休めねえじゃん…!
その顔で上目使い止めろ!可愛すぎるんだよ!
「……分かった、やりゃいいんだろやりゃ」
「やった…!」
琴音は笑顔で抱き着く。
「ただし!学祭回る時琴音はそのままでいろよ?」
「はぁ?!絶対に嫌よ!というか拓人以外に見られても嬉しくないんだけど…」
「そうじゃなくて、多分また訳の分からん投票があるから着替える暇があるのかって」
まあ無くても俺はこっそり着替えてやる。
「あるわよ?普通に」
いや、あるんかい!
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