第50話 過去と未来

《拓人視点》


 俺はこれから思い出したくもない中学の頃の話をすると、宣言して数分が経過。

 まだ過去に対するPTSDが残っているのか、なかなか話せずにいた。


「お兄ちゃん、無理しなくても良いんだよ?なんなら私が――」


「これは俺の問題だ…まだ怖いけど前に進まなきゃ…」


 結衣は身内である以上、全部知っている。

 でも川島さんや裕貴、特に琴音は何も知らないんだ。

 俺が…俺自身で話さなきゃ意味がない、さっきも言った通りに前へ進めないから。


「…俺、中学の時…いじめにあってたんだ…」


 川島さんと裕貴は絶句、琴音は怒りを露にしていた。


「教師に何度も言ったけど、相手にして貰えなくて…」


「毎日が…辛かった…」


 俺は俯き、震える手を抑えていた。


「皆と同じことをするとキレられて、かといって違うことをすると教師に怒られる…この時に俺は皆と同じ様にしたら駄目なんだって思うようになって、次第に孤立し始めたんだ」


「それでよく独りで居るのか…」


「うん…思い、出しちゃうから」


 俺は顔を上げ、琴音に視線を向ける。


「本当は憶えてた…琴音の事…でも、中学の頃を思い出すから必死に忘れようとしてた」


「拓人…」


「あぁっとごめん…話逸れたな」


 俺は話を戻そうと再び顔を俯かせると、琴音が手を握ってくれた。

 驚いて視線をまた戻すと、優しく微笑んでいていた。


「…大丈夫、今は私達はついてるから」


「ありがと…琴音」


 その後も話を進めた、俺が精神崩壊寸前まで独りで耐え続け我慢していたこと、我慢の限界で不登校になったことを。



 話終えた後、俺は前のように発作や偏頭痛が起こらなくなっていた。

 点滴の効果なのだろうか、それとも琴音達のおかげなのかは分からない。

 俺はいじめ前の時の感情表現ができないけど、自然と笑えるようになった。


 皆が帰宅した後に母さんが来て、優しく抱き締められた。

 また心配掛けちゃったな、なんて思いながら。


 俺は今結衣と一緒に外に出ていた。


「お兄ちゃん、なんか雰囲気変わったね」


「そうか?一緒だと思うけど」


「うん!って言っても、こと姉が居なくなった頃にだけど」


 なんだそれ?よくわかんねえ事言うな結衣は。


「…お兄ちゃん」


「どうした?また甘えたくなったのか?」


「ううん違う、こと姉の事……将来結婚するの?」


 俺は突然の事で頭の中が真っ白になった。


「結婚…!?んな事言われても、一度も考えたこと無いっての…」


「やっぱりお兄ちゃんもか」


「俺もって…?」


「こと姉も同じ様に驚いてたよ?」


 いやいきなり言われたら誰でも驚くでしょ…

 でも琴音と、か…今は付き合ってるけど将来的にはそうなるのかな?


「お兄ちゃんはしたい?結婚」


「分からない、けど…悪くないような気がする」


「そっか、んじゃ今はしっかり治さないとね?」


 ずっと落ち込んでいた結衣が今日はじめて笑った。

 俺はみんなのためにも早く戻れると良いなと考えていた。


「あ、そうだお兄ちゃん」


「ん?どうした?」


「学祭週末からだけど、皆から何か聞いた?」


 …………はい?学祭?


「いやなんも聞いてないけど…」


「楽しみにしてるね?お兄ちゃんのクラス」


 え、一体何やるんだ…?めっちゃ怖いんだけど……

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