第49話
拓人が倒れてから、一週間近くが経とうとしていたある日。
私は美咲達と拓人の病室に来ていて、今日あったことを赤裸々に語り合っていた。
勿論拓人は眠ったままで当然反応は返ってこない。
「…琴音、元気出して?」
「……」
いつ目覚めるか分からない、もし目覚めたとしても覚えているかどうかも分からないという恐怖に苛まれ、いつしか笑わなくなっていた。
「上野さん、本当に大丈夫?皆心配してるよ?」
「琴音、心配なのは分かるけど…琴音まで倒れちゃったら芝崎君きっと怒るよ?」
「……私なら平気」
私は拓人の手を握っている手に力が加わる、それを見た二人は顔を見合わせて諦めかけていた。
すると病室のドアが開く音がした。
「あ、皆さん…おはようございます」
「おはよう結衣ちゃん」
「……おはよ」
私は顔も向けずに、挨拶だけ。
すると結衣ちゃんは、私の隣に椅子を持ってきてそのまま座り、売店で買ってきたおにぎりが入った袋を見せる。
「こと姉、なにか食べないと本当に倒れちゃう…」
「…食欲ない」
「でも食べないと今度はこと姉が倒れちゃうよ!?私そんなの嫌だよ!」
大声でそう訴えてきた結衣ちゃんの目は赤く、涙が溢れていた。
驚いた私は渋々袋の中に入ったおにぎりを食べると、結衣ちゃんは笑顔を溢した。
「…美味しい、ぐすっ…たく、とぉ…!」
私はひたすら食べ続けた、結衣ちゃんや美咲に優しく抱き締められながら。
☆
「じゃあ私達はこの辺で、いこっ?ひろくん」
「ああ、じゃあまたね二人とも」
お昼頃に美咲達は病院を去り、拓人が倒れてから何度目になるだろうか、結衣ちゃんと二人きりだ。
やはり結衣ちゃんも元気がない、大好きなお兄ちゃんが倒れてからさっきみたいに笑うこともなくなったようだ。
「…もうあれから一週間かー」
「そうね…そろそろお昼だから、食べに行く?」
「うん!えへへ、こと姉とお昼~」
その時だった。
拓人の手が、少し動いた。
「拓人…?」
「お兄ちゃん!」
拓人の目がゆっくりと開いた。
そしてそのまま辺りを見渡して、目が合った。
「こ…とね…?それに…結衣か…?」
えっ…?今なんて…?私達の事覚えてる…?
私が衝撃を受けていたその時。
拓人が急に苦しみ出して、暴れだした。
「ぐっ…!あ、あぁっ…!あ、頭が…!」
「拓人!しっかりして!」
「お兄ちゃん!こと姉、今先生呼んでくる!」
結衣ちゃんはそのまま、部屋を飛び出した。
握っている手が尋常じゃない程の力が加わっていて、私は痛みに耐えながら必死になって拓人を落ち着かそうとしていた。
「拓人…!お願い…!落ち着いて…!」
病室のドアが開いて、先生が来たと思って視線を移すとそこには何故か先程帰ったはずの美咲、先生を呼びに行ったはずの結衣ちゃんがいた。
「美咲?!あなたどうして…それに結衣ちゃんも!」
「そんなのは後!とにかく芝崎君をどうにかしないと!」
「え、えぇ…!」
私達三人で必死に暴れる拓人を抑え込んだ。
ただやっぱり力がないから簡単にはいかない、でも必死に抑えていると再びドアが開く。
「美咲!先生呼んできたぞ!」
「芝崎君落ち着いて、深呼吸するんだ」
医師と看護士らと変わり、容態を見ながら抑えていた。
☆
拓人が目覚めて格闘し出してから、小一時間が経過。
なんとか先生達の力によって、拓人は落ち着いている。
「でも良かった~…私達の事しっかり覚えてて…」
「本当だよ、憶えてないかもなんて言われた時は頭ん中真っ白になったしな」
「こと姉、良かったね?」
「あはは…皆悪い、心配掛けさせて…うおっ、琴音?」
私は今まで我慢していたものが、全て崩壊しておもいっきり拓人に抱き着き、涙が出た。
「バカ…バカバカ!ほんっとーに心配したんだからね!?」
「琴音…本当悪かった、俺全部思い出したから」
「全部って…?」
拓人は優しい顔をしながら、懐かしむように、私達の顔を見てこう切り出した。
「…皆聞いて欲しい、中学時代俺が変わってしまったきっかけを」
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