第47話

 屋上へ向かった私と結衣ちゃんは、拓人が来るのを待っていた。


「あれ、琴音と芝崎君の妹さん?じゃん」


「美咲?どうしてここに…?」


「おにい…兄に会いませんでしたか?」


 美咲の口から想定外の言葉が出てきた。


「芝崎君ならさっき帰っていったよ?」


「どういうこと…?拓人はもうここには居ないって」


 こんな短時間で済むような事でもあったの…?

 なんか嫌な予感がする…


「私もよく分からないんだけど、今ひろくんが後追ってくれてる」


「…拓人」


 私はここで祈ることしか出来なかった。

 ちゃんと会って話がしたい、一体何があったの?


「あ、今ひろくんからメッセが―――えっ…?」


「美咲?」


 美咲は私達に送られてきたメッセージをそのまま見せた。

 その内容に私は頭の中が真っ白になった。


『こっそりと聞いてたら拓人が別れるって…一年の野郎』


「嘘、だよね?そんなことって…ねえ美咲?」


「そうだよ、あんなに幸せそうだったのに…きっと何かの聞き間違いだよ」


 けど何故か急に拓人の事が、信じられなくなってしまった。

 でもまだ私達は別れた訳じゃない。

 すると結衣ちゃんが、真剣な表情で私にこう言ってきた。


「こと姉…落ち着いてよーく聞いて、お兄ちゃんが別れたいなんてそんなのは嘘、渡辺さんは最初から気付いててそう言わせたの」


 結衣ちゃんがそういうと、美咲も同じ気持ちだった。


「妹さんの言う通り!琴音、信じてみようよ?」


「二人とも…ありがとう」




 ☆




《拓人視点》


 俺は渡辺さんに連れられ、人気の無い体育館裏にいる。

 移動の際に手をがっちりと握られて何度か離そうとしたが、なかなか離れなかった。


「ここまで来れば、誰も来ませんね?先輩」


「何が目的だ…?琴音と別れる気は更々ねえぞ」


「分かってます、ただあの時の約束を果たして欲しいんです」


 あの時?というかそもそも俺はこの子とどこかで出会っていたのか?


「…先生から聞きました、があるって」


「!な、何故それを…?」


 急に頭が割れるような痛みに襲われた。


「お、まえ…まさか…!ぐっ…!」


 俺はポケットに常備している薬を取り出そうとするも、そもそもポケットにはなく彼女の手元にあった。


「かえ、せ…!」


 痛みに耐えながら必死に声を絞り出すも、上手く声が出ずその場に倒れ込んだ。

 次第に発作も起こり始め、もはや正常な判断が出来なくなっていた。


 その際どこからか、裕貴の声が聞こえた気がした。


「大丈夫ですよ先輩…私は絶対に傍を離れませんし、ずっと傍にいますよ」


 不敵に微笑む彼女、俺は記憶の一部を思い出してしまい、完全に抵抗出来なくなっていた。


 心身共に完全に壊れた状態に戻った俺は、本来誰も信じられない精神状態なのにも関わらず、彼女の言葉を完全に信じ切ろうとしていた。


「ほ、んと…?」


「てめえ…!拓人から離れろ!拓人もこいつの言葉に踊らされるな!」


「ちっ…あと一歩だったのに」


 彼女は手に持っていた薬をその場に置いて、その場から去った。


「拓人!」


 俺は裕貴に抱えられていた。


「拓人しっかりしろ!今美咲たちも呼んだから!」


 裕貴…?なんで泣いてるんだ?


「だから頼む…!戻ってこい!拓人!」


「お兄ちゃん!」


 結衣…?それに川島さんと琴音まで、どうしたんだ皆して…?

 俺は琴音にそっと抱き付かれる。



 それに安心してしまったのか、俺はそのまま気を失った。




「拓人…?拓人…!起きて!拓人ぉ…!」

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