第45話

《拓人視点》


 あの日以来、結衣は俺達の前でよく甘えてくるようになり、俺達も前より笑顔が増えていた。

 

 それから一週間程経ったある日、体育で最後のバスケをやっていた時だった。

 前よりも女子の量が増えている、裕貴目当てか?と思ってやり過ごそうとしても歓声で全てを悟った。


「…なぁ、裕貴」


「分かってる、女子の事だろ?」


 裕貴はにやにやして女子の方と俺を交互に見ている。


「早く終わらねえかなぁ…体育」


「愛しの彼女に慰めて欲しいってか?いいねぇ、モテる男は」


「おめえもいるだろ…」


 その会話を聞いていた近くの男子から、ものすっごい視線を感じた。

 俺はもうとっくに慣れてしまったが、裕貴はそうでもなくむしろ尋問が始まっていた。


「おめえどういうことだぁ?!」


「落ち着けってお前ら!拓人!助けてくれよ!」


 俺はチラッと裕貴の方を見て、何事もなかったかのように視線を戻す。


「薄情者~!」


 裕貴がなんか言ってるが気にせずに、なかなか決まらないスリーポイントの練習に戻り、定位置についてもう一本放つもリングに嫌われた。


「…今日は調子悪いなぁ」




 ☆




《琴音視点》


 今日は体育の日、私にとっては苦痛だけど、一つ楽しみなことがある。

 というか女子がいつもより多すぎるんだけど…?


「ねえ美咲、今日も女子の数多くない?」


「そうだねー」


「私としちゃちょっと妬けちゃうんだけど…」


「そうだねー」


 さっきから同じことしか言わない美咲、視線を追ってみると案の定だった。


「…美咲は彼氏以外に興味なし、か」


「ふぇっ?!あ、いや…違うってば!」


 それを聞いていた一人の女子がきっかけとなり、美咲はあっという間に囲まれ、質問責めされていた。


「ねえねえ川島さんの彼氏ってどんな人なの?」


「いいなぁ、美咲は」


「同じクラスの子なんだよね?誰々?」


「え、えと…あう…」


 私は苦笑いをして視線を戻すと、同じようなことが男子でも起きていた。ただ一人の男子を除いて


「相変わらずだね、たっくんは」


「…そうね、今日は珍しく決まらないもの」


 私に話し掛けてきたのは拓人のもう一人の幼馴染であり、私のもう一人の友人の明莉さん。

 あの後、私達は密かに仲直りをした後、連絡先を交換している。


「最近のたっくんはどう?」


「相変わらずよ、この間勉強見てあげたぐらいね」


「いいなぁ…本当なら私も一緒にやりたかったなぁ」


 明莉さんはあの日を境に、拓人の前に現れなくなった。

 最初は少し気にしていたけど、今はそうでもないらしい。


「だったら、今日にでも―」


「邪魔しちゃ悪いし遠慮しとく、それに…私もそろそろ前に進まなきゃ」


「応援、するわ」


 その後私達は笑い合って、二人で拓人の練習風景を眺めていた。


「あ、やっと入ったね」


「…うん」


 拓人と目が合い、私は小さく手を振る。

 それに応えてくれたのか、拓人も振り替えしてくれた。


 というか、涼しい顔して決めるとか本当格好良すぎるんだけど!

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