第31話

 俺はなんとかリビングへ、そのままキッチンに行き少し水を飲んだ。

 でも身体の震えは一向に治まる気配がなかった。


「ははっ…いつ振りだろこれ…」


 俺はそのまま座り込んで、落ち着くまであの時の琴音の顔を思い出す。

 俺は初めて拒絶してしまった、それ故に今こうして一人で―


「こと…ね?どうし――――」


「ごめんなさい…辛いことだって分かってたのに…」


 泣きながらも俺を優しく包み込んでくれる琴音、そんな俺は次第に身体の震えが止まり出した。


「悪いのはこっちだ、いきなりあんなこと言っちゃ…って…」


「拓人…?」


 俺はそのまま気を失った。




 ☆




《琴音視点》


「拓人…?」


 よく見ると、疲れたのか安心したのか分からないが、すやすやと寝ていた。

 話を切り出した時の拓人は恐ろしいほど怖かった、そんな彼は今は何処にも居ない。

 私は誰も居ないこの場で、頬にキスをしてソファーまで移動した。


 ソファーまで移動した私達は、彼を横に寝かせ、小さな毛布を掛け、結衣ちゃんの部屋での事を思い出していた。


 拓人がいじめられていたこと、そのときの古傷が未だに癒えていないこと、そして―


「まだ治療中だったなんて…知らなかった」


 あのまま拓人が出ていった後、私は気になって小さな袋と錠剤を見て驚いた。

『精神安定剤、次回受診日まで』

 と、袋には記載されていた。


 私は拓人の頭を優しく撫でながら、拓人が目覚めるまでずっとそばに居た。




 ☆




 どれぐらいの時間が経ったのだろうか?気付けば私も寝てしまっていた。

 目を開けると、拓人に掛けていたはずの毛布が私に掛けられていた。


「おはよ、琴音」


 隣を見ると、普段と変わらないいつもの拓人が居た。

 だが、私は完全に寝惚けているせいで、何処から出したのか甘い声で拓人の肩に顔を預けていた。


「はいはい…これでいいか?」


 今何が起きているの?でもなんか凄く気持ちいい…ずっとこうしていたい気分だ。


「琴音さんもなかなかやりますなぁ…ねえお兄ちゃん?」


「お前もそんな変わらねえぞ、特に今みたいに―」


 ……へ?なんで結衣ちゃんが?

 私はゆっくりと意識が覚醒し出して―


「今度こそ、おはよ琴音、随分寝惚けてたね?可愛らしい一面が見れ―って痛い痛い!」


「バカバカ!拓人のバカー!」


 私はそのまま毛布で顔ごと隠した。


「うぅ…見られたぁ…」


 今すぐにでも逃げ出したい、拓人ならともかく結衣ちゃんに見られるなんて…

 穴があったら入りたい気分、現に結衣ちゃんはものすっごい笑みでこっち見てるし!


「へぇー?普段あんなに甘えてるんですかぁ?流石ですよぉ~こ·と·ね·さ·ん?」


「っ~~~~~~~~!」


 何なのあの子!?それにあ、甘えてなんかない!身を委ねてるだけよ!

 拓人もなんとか言いなさいよ!貴方の妹でしょ!?


「結衣、さっきの後でメッセで送って?」


「うん!分かったー」


 勝手に撮るなああああああああああああああああ!!

 拓人も止めろ!!!何乗り気なのよ!!!!


「琴音ばかりなのはずるいでしょ?俺にもそういうの合っても良いと思うけど」


 私はあんたらと違って、静止画よ!!

 …まあこんなこと言ったら、これ以上に私が辱しめを受けるから言わないけど


「…今度撮らせてあげるから二人とも今すぐ消して!」


 結衣ちゃんはすぐさま消したはいいけど、そんな悲しそうな顔しないで!


「拓人も早く―っ!」


 近い近い!顔が…あっ…


「んむっ?!」


「うわーお、お兄ちゃん大胆」


「んぅ…ぷはぁ…た、拓人?!あんたなにや――」


「…ごめん、あれからずっとお預け食らってたから我慢できなかった」


 だからって今するか普通?!ムードを考えてよ!?


「……こんな時にするな、バカ」


「最後の方ノリノリだったくせに?」


 …うっさい、バーカ♪


 林檎のように顔が赤くなった私は顔を隠すように、拓人の胸に押し付け、ちょっと嬉しくて小さく笑った。

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