第32話

《拓人視点》


 琴音はずっと俺にべったりとくっついているが、嬉しいし可愛いと思う反面、少々暑くなってきた。


 俺はその旨を伝えると、むしろ琴音は力を込めて離すまいとしていた。


「…今はちょっと無理、見られたくない顔してるから」


 まあさっきから照れてる時は耳まで赤いしな、今も赤いけど


「でも正直朝から色々ありすぎて、俺何も食ってないからそろそろ離れて欲しいんだけど…」


「……じゃあ五分だけ我慢してくれたら」


 琴音はそう言って、落ち着かせるために深呼吸をしてた。

 そんな俺は結衣に視線を送るが、結衣はリスみたいにほっぺを膨らましていた。


「…そこ私だったら怒るくせに、甘くない?」


 んなこと言われたって、可愛い彼女の願いだもん。


「にぃにはもう少し妹を甘やかしても良いと思うんです!」


 もう十分甘やかしただろうが!というかまた呼び方戻ってるし…

 すると琴音から視線を感じ取ったのに気付く。

 そっちに顔を戻すとまた顔が赤くなり、少し目線をずらされる。


「っ…あぅ…」


 そしてまた抱き着かれる、さっきと全く同じ様に。


「…ごめん、もう少しだけ」


「…悪いけど結衣、琴音がこんな感じだから時間も良いし、ご飯お願いできるか?」


 すると結衣は、むすっとしたまま台所に立ち、準備を始めた。




 ☆




《琴音視点》


 拓人にキスされてからか、さっきからおかしい。

 キスされた程度でまさか、まともに顔を見れないなんて…


「琴音?聞いてる?」


「…えっ、あっ…うぅ…ごめん、なんか言ったの?」


 彼の顔を見るだけなのに、顔が凄く熱い…一体どうしちゃったのかしら?

 今の反応で心配させたのか、拓人は私の顔を優しく触れた。

 私はびっくりして拓人の顔を見てしまう、私は彼の優しそうなその顔に当然引き込まれる。


「思わず…キス、しちゃってごめん」


 謝罪だった。

 私はそんなことない!とは言えなかった、それが事実で現に今もまともに見れない。

 この時に格好良いとか、優しいとか、そんな単純な表現じゃ言い表すことが出来ないぐらい私は彼に惚れてしまったんだと改めて思った。

 その際、ふと幼い頃に言われたことを思い出した。


『ねえ、ことちゃん…おおきくなってもずぅーっといっしょにいようね!』


『ことちゃんのことはぼくがまもってあげるから!!』


 あれからもう十年も経った、再会して付き合えた、それだけでも十分幸せだけど、ここで満足しちゃいけない。

 ここから彼を幸せにしてあげるんだ、と。


 そう思うと、まだ恥ずかしいけど今度はしっかり彼の顔を見ることが出来た。


「…そう、ね…ちょっと驚いたけど、嬉しかったわ」


「本当にごめん、ってちょっとこと―!」


 私はやられたことをやり返し、さっきよりも長く、初めての時よりかは短めのキスをした。


「…どう?ちょっとは気持ち理解できた?」


 拓人は苦笑いをしながら、私に向かってこう言った。


「やっと元に戻った…」


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