第30話
《拓人視点》
「実はさ…その子と付き合ってるんだ」
「…え」
「明莉が俺の事好きなのも気付いてた、本当にごめん…」
俺は卑怯だ、分かっててこんなこと言うんだから…
「そっ…か」
俺は横目で明莉の顔を見ると、うっすらと一筋の涙が頬を伝った。
「ねえたっくん、わがまま言って良いかな…?」
「いいよ、出来る範囲なら」
「一緒に寝たい…あの頃みたいに」
☆
翌日色々あって、琴音がやって来て、明莉は家に帰ってしまって、結衣が絶妙なタイミングで帰ってきた。
「二人共どうしたの?反対側向いて」
そう、結衣があと数秒遅れていたら、完全にキスを見られてた。
「お、おかえり…!き、昨日心配したんだぞ?」
なるべく平常心でいこうと思ったけど、逆に意識しすぎて動揺してしまっている。
「?連絡なら入れたじゃん、何かあったの?」
「な、何もないわよ!ねえ!拓人?!」
琴音が一番駄目じゃん…めちゃめちゃ意識してんじゃねえか
「お、おう…」
結衣はそんな俺達を見ながら、頭を傾げていた。
「変なの…」
☆
その後、琴音は結衣に連れられて結衣の部屋に、俺は自室に戻って落ち着きを取り戻そうとしていた。
「あとちょっと、だったな…」
付き合う前までは見れなかった、いろんな琴音の顔が見れて、知れて嬉しかった。
中でも一番驚いたのは、意外と甘えん坊なところだ。
「あいつ可愛すぎんだろ…」
妬いている琴音は若干危なっかしいけど、素直になろうとしてる姿を見ていると色々と応えてあげたくなる。
ただ琴音が来た時、荷物の量がやけに多かったのが気になる。
「いやまさかな…付き合ってまだ三日だぞ?流石にそんなこと―」
「何よ拓人、来たら駄目なの?」
「…驚かすなよ、それにそんなことねえ」
俺はベッドから起き上がって椅子に座り、琴音は辺りを見渡していた。
「あの頃とちょっと雰囲気変わったぐらいで、何も変わってないのね…」
「そりゃ十年も経てばな…おっと」
今日は一段と可愛く見え、それと同時に愛おしくもあった。
「今日はどうした?随分とキャラが変わってますけど?」
「あなたの前だからよ?まだちょっと恥ずかしいけど」
琴音は俺の胸に顔を押し付けて、俺はそんな琴音を抱き締めて二人だけの時間を楽しんでいた。
☆
満足した俺達は、気付けば琴音が一冊のアルバムを取り出していた。
「ふふっ、本当に可愛いわね」
「まあ幼い頃だしな」
一枚の写真をじっくり見ては、微笑んだり、照れたりしていた。
ちょうど卒園式の写真が入ったところで琴音は寂しそうに見ていた。
「突然居なくならなかったら、こうして写真撮って貰えたのに…」
両親と俺とが写った良くある写真だったが、その頃は俺も今みたいに暗かったなと写真を見て思った。
「俺…寂しかった、ずっと一緒だったのに急に居なくなったから、ほら暗い顔してるだろ?」
すると琴音は手を握ってきた。
その手は小さく震えていて、少し力も入っていた。
「私はもう何処にもいかない、ずっと貴方のそばに、味方でいるわ」
突然の事に俺は、動揺した。
「ど、どうしたんだ?俺もずっと―」
「私聞いたの…貴方の中学時代の事を」
俺はそれと同時に気分が悪くなり、軽い発作が起きた。
「拓人…?ちょっと大丈夫?」
俺は机の上にあった錠剤を震えた手で取り出して、飲み込んだ。
薬のおかげでなんとか落ち着きを取り戻した。
「…二度とその話はするな、もう終わったことだ」
俺はふらついた身体で、リビングに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます