第29話

《琴音視点》


 結局私はこの間と同じ服装で、拓人の家に向かった。

 何人かにチラチラと見られていたけど、そんなことは気にせずにただひたすら歩いていた。


 それから数分歩いてようやく着いた。

 季節は春から夏へ向かっているためか、少し汗ばんでしまった。


「ふぅ…よしっ!」


 拓人の家のインターフォンを押すと、玄関が開いた。


「おはよう琴音、ちょっといいか?」


 拓人は家の中を気にしていて、私の元へとやってくる。


「どうしたのよ?」


「実は…その…」


「たっくーん!何し…あっ」


「えっ…?」




 ☆





 私は物凄く腹が立っていた。

 なんで倉本さんと一緒なのよ!?うら…じゃなかった、彼女の私が居るというのに!


「本当に申し訳ございませんでした!」


「…ふんっ」


 倉本さんが言うには、昨日拓人のご両親が今日は結衣ちゃんが居ないからという理由で連絡を入れていたのがきっかけらしい。


「…一緒に居た理由は分かった、でもね?これだけは言わせて?」


「…はい」


「どうして一緒に寝たのよ?!」


 拓人の彼女である私が居るというのに…!


「それ、は…」


 拓人は言葉を詰まらせ、俯く。


「それは私が悪いの」


「…倉本さん」


 倉本さんは拓人のご両親に頼まれたとはいえ、何故あんなことをしたんだろうか?


「れいちゃんから全部聞いたの、たっくんと上野さんと付き合ってるって…」


「倉本さん…」


「私負けちゃったんだなって…ずっと一緒に居た筈なのに…ぐずっ…私も、好きなのに」


 私は何も言えなかった、なにせ倉本さんの拓人に対する想いを今ここで初めて知ったから。


「っと、ごめんね…お邪魔だよね…私かえ――えっ…?」


「琴音、今だけは赦してくれ…」


「ちょ、ちょっとたっくん、く、苦しいよ…」


 ちょっと妬けるけど、今この状況でそんなことは言ってられない。

 倉本さんも拓人にすれば私と同じ、それ以上もそれ以下もない。


「ぐずっ…だっ…ぐん…やだ…やだよぉ…!」


「…ごめん明莉、こんな俺と幼馴染で居てくれて」


 倉本さんは大号泣、落ち着くまでずっと抱き合っていた。




 ☆




 倉本さんは少し落ち着いたのか、普段の性格へと戻っていた。

 まだ少しだけ目が赤いけど、こればかりは時間の問題かな?


「んで、倉本さん」


「んー?なあに?」


「いつまで抱き着いてるのよ!うら…じゃなかった、いい加減離れなさいよ!」


 むぅ…!わ、私だって色々覚悟してきたんだからね!?


「あはは、怒られちゃった…ごめんね二人とも」


「…気にするな、とは言えねえな、ははっ」


「今度こそ帰るね、たっくん、琴音ちゃん…お幸せに」


 そう言い残し、倉本さんは帰宅した。


「本当にわ――っと、琴音?」


 私はもう我慢の限界だったのだろうか、気付けば彼に甘えたくて甘えたくて仕方なかった。


「…本当、バカなんだから、むふふ」


 拓人は苦笑いをしながら、私の頭を撫でてくれた。

 凄く気持ちが良くて、心が温かくなった。


 私はずっと彼の胸の中で、倉本さんや渡邉さん以上に彼を、拓人を愛すると心に誓った。


 良い雰囲気のせいか、彼との顔の距離が凄く近い。


 私たちは何かに吸い込まれるように顔を近づけ――


「たっだいまー!もうお兄ちゃん!居るなら居るって――あっ」


「「あっ(えっ)?」」


「…てへっ」


 いつの間にか、結衣ちゃんが帰ってきていた。

 私は頭の中が真っ白になった、というか既に真っ白だけど。


「「~~~っ?!」」


 お互い離れ、お互い反対側を見ながら、私は髪の毛の先を少し弄り、拓人は顔を真っ赤にして俯いていた。


「あ、あは…ごめんなさい…」


 もう!折角良い感じだったのに、どうしてこうなるのよ…?!

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