第27話

《拓人視点》


 初めてのキスをした俺達は、暫く無言のまま抱き合った。


 キスひとつで琴音がこんなにも可愛く見え、更に愛おしく思えるのかと想いながら、俺は琴音の事をもっと知りたいと思った。




 ☆




 あれから少し時間が経ち、ベッドの上で並んで座っている。


 琴音の手を握っていると


「拓人…あの頃と全然違うね」


「…もっと表情豊かだったのに」


 琴音は少し俯き、懐かしそうに言った。


「……俺、人が怖いんだ」


「人が…?」


「うん…中学の時、いじめ受けて…」


 俺は俯き、嫌な記憶を思い出そうとした。


 すると琴音が優しく、俺を抱き締めた。


「誰にだって嫌なこと、辛いことはある…無理して思い出そうとしないで?拓人のつらそうな顔見たくないから…」


「琴音…」


「ほら、笑って拓人」


 俺の顔を両手で振り向かせ、本日二回目のキス。


 最初は驚いたが、次第に受け入れさっきよりは長めのキスをした。


 お互いの口が離れると、琴音は俺の肩に頭を乗せた。


「学校の時と全然違うね」


「…誰よりも拓人の事が好きだから」


 そう言って、俺の右手と琴音の左手が恋人繋ぎになり、二人で笑い合った。


「あ、そういやプレゼントあったんだった」


 俺は今思い出したかの様に呟き、左手で小さな紙袋を持ちそのまま琴音に渡す。


 受け取った琴音は嬉しいのが、右手に伝わってきた。


「開けて良い?」


「うん、気に入るか分かんないけど…」


 琴音は小さな紙袋を開けると驚いた様子で、プレゼントした物を目の前に持ってきた。


「これって…」


「メッセで送った奴、ちなみに俺はこれ」


 と、自分のポケットからスマホを取り出し、黒猫のキーホルダーを見せる。


 琴音は封を開けるとそのままスマホに付け、俺のスマホとくっつける。


「ふふっ、こういうのも悪くないわね」


 と嬉しそうに呟いた。




 ☆




「もっとゆっくりしても良いのよ?」


「いえ、そういうわけにはいきませんので…」


 時刻が十八時になった頃、俺は帰宅前に琴音の母親に捕まっていた。


「そう?じゃあいつでもいらっしゃい、拓人くん」


 と言って、リビングへ戻っていった。


「もう…ごめんね拓人」


「それじゃ、帰るね」


 と俺は前を向くと、あっという言葉と一緒に袖を掴まれる。


「琴音…?」


「あ、いや、その…また明日」


 そう言って、後ろを向く。

 耳まで赤いのが分かり、俺は


「また明日、どっちの家にするか決めてないし、また連絡するよ」


 と言って、その場を後にする。


「……うん」


 琴音は小さな声で、そう呟いた。




 ☆




《琴音視点》


 拓人を見送ったあと、私は部屋に戻りスマホに付けた白猫のキーホルダーを眺め、まだ彼の温もりが残っているベッドに腰掛けた。


「…まさか、拓人が来るなんて」


「……キスしちゃった…」


 顔が熱くなっていくのが分かる、そっと自分の唇を触る。


 胸が鷲掴みされたような感覚があり、更に熱を帯びた。


「拓人の家、行きたいな…」


 拓人の彼女だし、別に良いよね?家デートってちょっと憧れてたし。


 私は前回に引き続き、コーデを考えていた。


 するとスマホが震え出した。


 案の定相手は拓人で、短めの文が送られてきた。


『明日どうする?』


 私は拓人の家にいきたいと送ると


『別にいいけど…』


 けど、なんだろうか?散らかってるとかそういう感じかな?なんて思っていたら


『両親は連休頭から旅行行ってて、結衣はさっき友達の家に泊まってくって連絡があって、俺一人…なんだ』


 なんですと…?明日は二人きり…?


 私はそのままフリーズしてしまい、一晩中悩んだのであった。

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