第26話
《拓人視点》
俺は困惑している、なんせ見ず知らずの人に抱き付かれているから。
「あ、あの…」
「あらやだ私ったら…ごめんなさいね」
母親らしき人物はそのまま離れていく、それと同時に自己紹介が始まった。
「琴音ちゃんの母です、と言っても実の娘じゃないんだけどね」
「えっ…それってどういう―」
「詳しいことは言えないけど、これからも琴音ちゃんと仲良くしてあげて?あの娘、ああ見えて寂しがり屋だから」
そう言い残し、リビングへと戻っていった。
すると紅音さんが申し訳なさそうな顔で
「今言ったことは本当だよ、お互い血は繋がってない」
「…そうですか」
「私は早くに父が死んじゃってて、顔を見たこと無いんだけど、琴音は幼い頃に離婚したらしいんだ」
と紅音さんは少し暗い顔で、二階を見る。
「ずっと泣いてたっけ、大好きだった一人の男の子と別れちゃったから」
それを言われ、俺は一部の過去を思い出した。
顔までは思い出せなかったが幼い頃、公園で泣いていた女の子が落ち着くまで、一緒に居たっけか…
「と、こんなところで立ち話もなんだし、上がりなよ」
「あ、はい…お邪魔、します」
緊張と恐怖で腕が震えている。
俺は落ち着かせるために一旦深呼吸し、紅音さんに付いていった。
階段を上がり切ったところ、紅音さんは躊躇なく琴音のプレートが飾ってある部屋に入った。
あそこが琴音の部屋かと思い、俺も向かった。
「あらら、琴音寝ちゃってるね」
紅音さんの言う通り、背を向けてはいるがぐっすりと寝ている。
「えっと、拓人君でいいかな?琴音の傍にいっておいで」
「は、はい…」
「そんな緊張しなくても何も起きないって」
琴音と違い、優しそうな感じの人だが個人的に苦手だ。
言われた通り、すぐ傍まで近寄ると寝返りを打ってきた。
「ん、んん…すぅ…すぅ…」
寝ている琴音は物凄く可愛く、思わず頬が緩む。
「…寝て、ますね…ぐっすりと」
紅音さんが居るお陰でなんとか自制することは出来ているが、居なかったら今頃どうなっていただろう?
なんて考えていると琴音が目を覚ました。
「おはよ、上野」
「?!な、なんで拓人がここに!?」
俺がいるとは思わず、顔を赤くして寝癖を治しながらチラチラと見てくる。
「私が入れてあげたんだよ、琴音」
と紅音さんは言うが、琴音は辺りを見渡していた。
それを見て、紅音さんはお怒りモードだった。
「琴音、流石の私も怒るぞ?」
「あ、あか姉…」
「じゃあお邪魔しちゃ悪いから、私は失礼するよ」
そう言い残し、部屋を出た紅音さんだが微かに笑みを浮かべていたのを俺は見逃さなかった。
「「……」」
やはり慣れない、彼女と二人きりなのだが、お互い無言だ。
お互い無言のまま数分経った後、俺は何も言わずに来たことを謝った。
琴音は気にしてないとは言ってくれたが、やっぱり一言言うべきだなと反省した。
「そか…なぁ琴音」
お互いの顔は再び赤く、俺に至っては今にも破裂しそうなぐらいドキドキしている。
「明日…デートしよっか」
「えっ―」
「と言っても、今日結衣と行ったせいで金欠だからどっちかの家にになるけど…」
結衣の奴、俺に金使わせやがって…今度こそ金は出さないようにしないと…琴音に、嫌われたく、ないし…
そんな俺はいきなり抱き締められた。
俺は慌てて支えて、同じように抱き締める。
「うん、うん!したい!一緒に居れるならどこでも良い…」
琴音の突然のキャラ崩壊に俺は困惑する。
「どうした、琴音?キャラが崩壊してるぞ?」
「えへへ…」
琴音はそのまま、俺の胸に顔を押し当てる。
そんな俺は琴音の事を愛おしく感じ、再び優しく抱き締めた。
琴音は驚いて顔を離し、お互い見つめ合う。
琴音は目を瞑り、顔を近づけてくる。
俺もそれに応えるかの様に顔を近付けて――
――初めてのキスをした。
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