第25話

《拓人視点》


 翌日、今日は結衣と出掛ける日なのだが、正直あまり乗り気じゃない。

 というのも


「結衣ー、まだなのかー?」


「もう少しで終わるから待って~!」


 現在時刻は朝の十時頃で、そろそろ人も増えてくる頃合いで未だに準備をしている結衣。

 俺は玄関で待ちぼうけだ。


「ごめん!お兄ちゃんお待たせ!」


「ん、じゃあ行くぞ」


 俺は先に外に出て、結衣は後を追うように出た。


「少しぐらい誉めてくれたって良いのに…」




 ☆




 俺達は、近くのショッピングセンターに来ていた。

 ショッピングセンターに着くと同時に、結衣は小物店に入っていった。


「ねえお兄ちゃん、どう?似合ってる?」


 結衣は現在はロングヘアなのだが、可愛らしいヘアゴムを使い、ポニーテールにしていた。


「似合ってる、髪型ひとつでこんなに変わるんだな」


「お兄ちゃん!私だって女の子だからね?えへへ」


 褒められて相当嬉しかったのか、同じようなシュシュを数個レジに持っていて精算しにいった。


 その間、俺は店内を散策すると結衣に告げ、色々な小物を見ていった。


「へぇ…色んな物があるんだな…」


 シュシュは勿論、女の子には欠かせない必須アイテムが色々と並んでいる。

 するとひとつの商品に目がいった。


「これ、結衣と上野にプレゼントでもしようかな…?」


 結衣は問題ないが、上野はこの場に居ないため、どうしようか悩んでいた。


「そうだ、写真でも撮って聞けば良いんだ」


 俺はストラップとペンケースを撮り、上野に聞いてみた。


『両方買えば良いじゃないの、バカ』


 予想外の返信に俺は思わず苦笑い、どうやら怒ってるようだった。

 俺は返信で上野にも買うと告げ、その二点を購入した。




 ☆




 その後は色んな店を回り、俺達は昼食を取っていた。

 結衣はたこ焼き、俺はラーメン。


「んでお兄ちゃん、それ何?」


「これか?上野の為にプレゼント買ってみた」


 そう告げると、結衣は頬を膨らませながら足を蹴ってきた。


「いって!何すんだよ結衣」


「私には?」


「ちゃんとあるから拗ねんな…」


 俺はやれやれといった感じで、ペンケースが入った小袋を渡す。

 結衣は笑顔で受け取って、小袋を開ける。


「…ペンケース?良いのこれ?」


「遅くなったけど、一応入学祝いとして受け取ってくれ」


「…ありがと!にぃに!!あっ…」


 俺は結衣の頭を撫でながら


「彼女が出来ても、俺はお前の兄なんだから無理に変わる必要なんて無い、いつも通り甘えてこい」


「…うん!えへへ」


 結衣は笑顔で答えてくれたが、俺は左手を結衣に気付かれないように握りしめていた。




 ☆




 その後結衣は、たまたま遊びに来ていた友達と偶然出会ってそのまま一緒になり、俺は一人で帰路についていた。


 急に一人になった反動か、心が落ち着かない。


「…大分慣れたと思ったけど、まだまだか」


 俺はその場を逃げるようにショッピングセンターを出る。





 ☆




 一人で帰路についていると、一人の小さな女の子に出会う。


「君があの拓人君かな?」


 見ず知らずの人の筈なのに、何故俺の名前を…


「おっと、名乗ってなかったね私は上野紅音、一応琴音の姉だ」


 そう告げられると俺を凝視していた。


「それで…なんすか」


 俺は少し警戒し、距離を取る。


「立ち話もなんだし、うちに寄っていきなよ」


「…意図は?」


「そんな警戒しなくても、襲わないから付いてきて」


 言われた通り、紅音さんの後を追う。


 数分歩いて、紅音さんの家に着く。


「ただいまー、お母さん連れてきたよー」


 …ん?連れてきた?一体どう――


「あら~!良い男の子じゃない~!さっすが琴音ちゃん!こんな格好良い男の子捕まえて!」


 ――出会って数秒、俺はいきなり抱き締められた。

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