第24話
《拓人視点》
『私は、いい…よ?』
そのたった一言で、俺の思考回路はショートして固まってしまう。
それを見た結衣は不思議そうにこちらを見て、顔を傾げている。
『た、拓人……?』
上野の一言で、何とか現実に戻ることが出来た。
「ほ、本当に良いの?さっき言ったけど、まだ付き合ったばかりなのに…」
『この事お義母さんに話したら、会いたいって言ってたから…』
「そか…」
でも明日は結衣と出掛けるから、どのみち行けるのは明後日以降になる。
俺がどうしようかと悩んでいたら、気付けば結衣がスマホを取り上げて
「先輩?お兄ちゃんと何を話してるか分かりませんが、いくら先輩でも明日だけは絶対に駄目です!」
と言い残して、そのまま切った。
何故か結衣は怒っていて頬を膨らませ、俺を睨んだ。
「…お兄ちゃん、そんなに先輩に会いたいなら明日ちゃんと付き合って」
「お、おう…分かった…」
そのまま結衣は俺の部屋から出ていった。
な、なんだったんだこの時間…
☆
《琴音視点》
結衣ちゃんから明日は絶対に駄目と釘を刺され、少し落ち込んでいる。
結衣ちゃんはいきなり通話してくるわ、拓人と話せたけどいきなり会いたいなんて言うわでもう私の心はぐちゃぐちゃ。
「た、拓人も拓人よ!…私だって、逢いたいわよ…バカ」
私は彼の意外な一面を知り、布団の中に潜り込み、悶えていた。
☆
翌日、私は少し落ち着きがなかった。
そのせいか、あか姉に何度か怒られた。
「今、何してるのかしら…」
さっきから気になって仕方がない。
早く逢いたい、声が聴きたい、抱き締めたいという気持ちと相手が妹とはいえ、少し妬いていて色々と聞き出したい気持ちでいっぱいだった。
「はぁ…」
スマホを片手に持ちながら、ベッドにダイブする。
すると、拓人から一通のメッセージが送られてきた。
『結衣に買ってあげたいんだけど、どっちが喜ぶかな?』
その後に画像も送られた。
可愛らしい猫のストラップとペンケース、どっちを買っても結衣ちゃんなら喜びそうなんだけど、何故かモヤモヤしていた。
気付けばこんなメッセージを送ってしまった。
「両方買えば良いじゃないの、バカ」と
送った後に私はスマホを机の上に置き、不機嫌になっていた。
「拓人のバカ、もう知らないんだから…!」
でも返ってきたメッセージは予想を裏切る内容だった。
そんな私はずっと不機嫌だったので、気付くのは大分後だ。
『どっちかを上野にあげたいんだけどな』
☆
気付けば夕方、いつの間にか寝てしまっていた。
私はゆっくり体を起こそうとしたが、何故か拓人が居た。
「おはよ、上野」
「?!な、なんで拓人がここに!?」
「私が入れてあげたんだよ、琴音」
どこからか声がしたが、視界には入ってないためか辺りを見渡す。
そんな行為にムカついたのか、声の主が目の前に出てくる。
「琴音、流石の私も怒るぞ?」
「あ、あか姉…」
「じゃお邪魔しちゃ悪いから、失礼するよ」
そう言いながら、あか姉はそのまま部屋を出た。
あか姉なりに気を使ってくれたんだろう。
そして二人だけになった。
「「……」」
私は恥ずかしさと緊張で声が出ず、拓人は申し訳無さと緊張で俯いていた。
お互い無言になって数分経った後、先に口を開いたのは拓人だった。
「ごめん、急に押し掛けて」
「う、ううん…気にしてない」
「そか、なぁ琴音」
名前を呼ばれて、顔が熱くなる。
やはり慣れないのか、拓人も若干顔が赤い。
「明日、デートしよっか」
「えっ…」
「と、言っても今日結衣と行ったせいで金欠だからどっちかの家にになるけど」
とまた俯き、申し訳なさそうな雰囲気を出していた。
凄く嬉しくて思わず、拓人を抱き締めた。
勿論拓人もちゃんと返してくれた。
「うん、うん!したい!一緒に居れるならどこでも良い…」
「どうした、琴音?キャラが崩壊してるぞ?」
体全体で拓人の温もりを感じられて、さっきまで寂しかった気持ちが吹き飛んでいき、物凄く幸せだった。
「えへへ」
私は小さく微笑みながら、拓人の胸に真っ赤な顔を押し当てた。
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