第23話

《拓人視点》


 俺は気付けば、自宅の玄関前まで来ていた。

 あの後どうなったのか、どうやって帰ったのか全く覚えてない。


「……」


 すると、玄関が開いて結衣が出てきた。


「あれ?にぃにお帰り…ってどしたの?ボーッとして」


「…ただいま、何でもない」


 俺は結衣の横を通りすぎようとするが、左腕を掴まれてしまう。


「……先輩と何かあった?」


「!な、なんもねえ…俺、疲れてるから―」


「―誤魔化さないで、本当に何かあったんでしょ?」


 結衣は今にも泣き出しそうな顔で俺を見る。


「結衣、その顔は止めろ」


「で、でも…!またあの時みたいなことがあったらって―」


「―結衣」


 また俺は心配掛けさせてるな…

 もう何度目だろうか、結衣にこんなこと言わせるの


 もう正直に言うしかない、か…


「…今日、上野と付き合ったんだ」


 今度は頬を膨らませて、逃がすまいと腕に抱き付き始めた。


「にぃにのバーカ!」


 …言ってることとやってること、おかしくねえか?

 何で俺は怒られたんだ?普通はおめでとうとかそういうのじゃねえの?


「結衣?」


「にぃに…ううん、お兄ちゃん」


「な、なんだ?」


 にぃにからお兄ちゃんに呼び変えた結衣だったが、少し寂しそうな顔で俺にこう言った。


「おめでとう…」


 そう言い残し、結衣は静かに泣いていた。



 その後、結衣は何もなかったかの様に普段のように戻り、俺は自室へと戻った。




 ☆




 俺は部屋に戻ると、スマホを充電器に差し込み、一冊の本を手に取ろうとするが


「…なんなんだろ、この気持ち…全然落ち着かねえ」


 上野と駅で別れてからずっとこうだ。

 もう少し一緒に居たかった、もっと上野の事を知りたい等といった良く分からない感情が、俺の心を支配していた。


「はぁ…どうしちゃったんだか」


 何も手付かずで数分程ボーッとしていると、結衣がスマホ片手に俺の部屋に入ってきた。


「はい、お兄ちゃん」


 結衣は自身のスマホを俺に渡し、ずっと笑顔だった。


「も、もしもし…」


『え?!拓人…?』


 な、なんで上野の声が?


『…な、何か言いなさいよ』


 俺は胸につっかえてた何かが取れた気がした。


「う、上野…その……」


『う、うん…』


 結衣には聴こえない声で俺は


「今度…そっち行っても…良い?というか、行」


 と言い、段々と顔が熱くなっていくのが分かった。

 一方、上野からの返事がない。


「う、上野?」


『!え、あ…うん!!拓人は私と行きたいってことよね?!』


 俺はに行きたいと言ったはずが、何故かに行きたいにすり変わっていた。


「いや…そっちのに行きたいなぁ、って意味で言ったんだけど…」


『っ~~~!』


「上野…?」


 いざ冷静になってみると急すぎる展開で、流石の上野も困惑するのも分かる。バカだろ俺は…




「や、やっぱなしで、流石に今日付き合―」




『私は、いい…よ?』





 今度は俺がフリーズした。



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