第22話

《琴音視点》


 私は少し、自分自身に腹が立っていた。

 

「…ありがと、そしてごめんなさい、辛いことを思い出させて」


『あまり気にしないでくださいよ、もう過ぎたことですから…!』


 結衣ちゃんはいつものように元気一杯に言うが、辛い過去を思い出したのか声が震えている。


「…無理させてごめんなさい、明日も早いから寝るわ」


『…あの先輩、最後にひとつだけ質問良いですか?』


「何かしら?」


 結衣ちゃんから質問なんて珍しいと思っていた私。

 が、変なことを言い出した。


『お兄ちゃんのどこが好きなんですか?』


 …は?結衣ちゃん…?

 急に顔が熱くなるのが分かった。


「…い、言わなきゃダメなの?」


『はい!』


 そんな、言えないわよ!昔幼い頃に逢ってたなんて!!

 今の今まで忘れてたのに…!


 とは言えず、逆に意図してない言葉が出てしまった。


「……全部」


 全部って何よ!


『明日はお兄ちゃんと出掛けるので、一日だけ我慢してくださいね?それではおやすみなさい!』


「えっ、ちょっと結衣ちゃ――切られた」


 明日は逢えない、そう分かると気持ちが沈んでいくのが分かった。

 私はそのままベッドに飛び込み、静かに目を閉じた。



 ☆




 私は夢でも見ているのだろうか?

 小さな女の子が静かに泣いている、隣に居た男の子がその女の子の頭を優しく撫でていた。


「――ちゃん、どうしたの?」


「パパとママがけんかしちゃって…うぅっ」


「そっか…はやくなかなおりするといいね」


「うん…」


 男の子は優しい顔でずっとその女の子が落ち着くまで傍に居た。

 でもこの状況は覚えている。


 前の両親が離婚する前の日の事だ、普段の喧嘩とは違って、何故か怖くて逃げ出して一人で泣いてたっけ…


 結局この夢がきっかけで前の両親は離婚、今は父親と一緒に来て再婚して何不自由無く暮らしている。


 そこで目を覚ます、いつの間にか寝ていた。


「でもあの男の子の顔、何処かで…いたっ!」


 思い出そうとすると頭が割れるように痛む。

 今でも思い出したくないあの日の出来事、それと同時に忘れちゃいけない日でもある。


「っはぁ…なんとか収まった」


 それと同時に、ノックされる。


「琴音ちゃん?夕御飯が出来たわ、来れそう?」


 声を掛けてくれたのは静華さん、あか姉の本当の母親。

 あか姉がいるにも関わらず、実の娘のように接してくれる静華さんには感謝しかない。


「はい、今行きます」


「もう親子なんだから敬語は禁止よ?」


 と言われるが、正直未だに敬語を使ってしまう。

 義理とはいえ、母親なんだけどどうしても抜けない。


「あ、今まで一人にさせてごめんなさいね…仕事とはいえ母親らしいことあまりしてやれなくて」


 静華さんは申し訳なさそうに言う。


「でも、今日からお休み貰ったから存分に甘えてね?」


 と言い、リビングに戻っていった。


「甘える、か…拓人に甘えてみたい…な」


 また寂しくなった私は、スマホを手に取り、今日行ってきた水族館で拓人とのツーショットを見る。


「……よし、行こっと」


 私は部屋着に着替えて、リビングに向かった。




 ☆




 久々の静華さんの手料理、凄く美味しかったなぁ…

 どうすればあんな美味しい料理が出来るんだろうか?


「あの、静華さん」


「どうしたの?あまり美味しくなかった?」


「いえ!美味しいです、でもどうすればこんなに美味しく出来るのかなって」


 静華さんは少し考えて、小さく微笑みながらこう言った。


「今日はどうしたの?琴音ちゃんらしくないわ」


「実は……か、彼氏が出来たんです…」


 うう~、恥ずかしい!拓人も同じ気持ちだったのかな…

 すると、静華さんが抱き付いてきた。


「おめでとう!相手はどんな男の子なの?」


「こ、今度連れてきます!な、なので離れてください、く、苦しいです…」



 私から離れて、優しい声で



「改めて、おめでと琴音ちゃん!」



 そう言って貰えた、それだけで私は十分だった。

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