第21話

《拓人視点》


 俺達はその後も色々なところを回っていた。

 人気だったイルカのショーも見たし、彼女となった上野の楽しそうな顔を見れて俺はホッとしている。


 そして営業終了間際になり、俺達含め皆が帰宅すべく受付に向かっている際だ。


「ねえ、拓人」


「ん?どうした?」


「私達付き合ってるんだから…そろそろ、ね?」


 上野が顔を少し赤くしながら、チラ見していた。

 というか一体何がそろそろなのだろうか?全く検討も着かない。


「ごめん、言ってる意味が分からないんだけど…」


「…はぁ、だろうと思ったわ」


 上野は俺に朝のように抱き付き、満面の笑みを浮かべながら俺に向かってこう言った。


「もうじゃなくて、でしょ?」


「っ!」


 な、なんだこの感覚…?胸の高鳴りが尋常じゃない程速い…

 これが恋という奴なのか…?


「あら、どうしたのかしら?私の魅力に今更気付いたの?」


 余裕そうな顔で煽ってきたからか、少しムカついた。

 だから俺も反撃に出た。


「うっせ…そうだよ!今気付いたんだよ!…


「~~っ!さ、流石に今のは反則よ?!」


「そっちが煽ってきたからだろ…」


 その後もお互い顔を真っ赤にしながら、水族館を後にした。




 ☆




《琴音視点》


「ただいまー…えへへっ」


 拓人に告白され、晴れて恋人関係になってから、ずっとこの調子だ。

 嬉しすぎてにやけが止まらない…はぁ~あ、幸せぇ~…


「キモッ…まあその感じだと上手くいったみたいで何より…と言いたい所なんだけど」


「うへへ…」


「こいつ、姉の前でトリップしてやがる…琴音帰ってこーい」


 いたっ、折角色々出来そうだったのに…ってあれ?


「あか姉、何時からそこに…?」


「あんたがだらしない顔で帰ってきてからずっと、ご馳走さまで…ってちょっと?!」


「あか姉!今の全部忘れて!というか忘れろ!」


「わ、わかったから…」


 私はその場で頭を抱えて、しゃがみ込んだ。

(うわぁ…よりにもよってあか姉に見られるなんて…)

 そんな私を見てあか姉は


「とりあえずおめでと、いつかあんたの彼氏の顔見せなさいよ?」


 と言い残し、そのまま自分の部屋に戻っていった。


「全く…お義姉ちゃんは…」


 私は靴を脱いで、自分の部屋に戻った。



 ☆



 部屋に戻ると私は真っ先に、古いアルバムを手に取った。

 私の幼い頃の写真のページを見つけた。

 今思えばかなり性格が変わった、というよりは変えられたな…拓人に


「…引っ込み思案な私に優しくしてくれたっけ」


 二人とも今は全くの正反対だが、ずっと一緒に遊んでた。

 卒園と同時に両親が離婚し、そのまま疎遠になってしまった。


「…今まで忘れてた、恋を自覚した時に気付くべきなのに」


 目を瞑ると、私は彼に引っ張られてあちこち走り回っていたのを思い出した。

 あの頃は楽しかった、まだうちの両親は仲良かったし…


「……」


 私はそっと、彼の笑っている写真を撫でた。

 ふと意外なことに気付く。

 先週も、今日だって、あの日以来一度も拓人が笑った顔を見たことがない。


 彼はあの時のように、全く笑わなくなった。

 過去に一体何があったのだろうか、気になる。


「…結衣ちゃんに聞いてみるか」


 スマホを取り出し、L○NEを開き、柴崎結衣に通話した。


『もしもし、琴音先輩?なんですか急に』


「あ、もしもし結衣ちゃん?いきなりごめんなさい」


『そうですよ!ビックリしたんですから!あのお兄ちゃんと付き合ったって』


 流石の結衣ちゃんもご立腹のようだった。

 でも怒ってる姿を想像すると、不覚にも可愛いと思ってしまった。


「まあうん、色々あって付き合うことになったの」


『でも、先輩で良かったです…お兄ちゃん、笑うことあまり無いから』


「その、非常に申し訳無いけど…なんで拓人は笑わなくなったのか、何か心当たりある?」


 私がそう聞くと、結衣ちゃんの声のトーンが一段階下がった。

 そして私は思わず絶句した。


 それと同時に、二人を助けなきゃ…今度は私が拓人を救うんだと思った。







『お兄ちゃん、私が中学に入ってすぐにいじめを受けたんです…』


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