第19.5話 彼女の分岐点とその後

《怜奈視点》


 私は、こんなに悔しいと思ったことはない。

 羨ましいと思ったこともない。


 私は、彼と初めて逢った頃を思い出す。



 ★



 私は中学からの友達の倉本明莉ちゃんと一緒に入学式に出ていた。

 普段と何一つ変わらない私達、でもこれから高校生活が始まるとなると、嫌でもテンションが上がった。


 でも明莉ちゃんは入学式の時から様子がおかしい。

 ずっと心此処に在らず、って感じで何を言っても空返事だった。


 私が中学の頃に聞いた話では、小学生の頃からずっと一緒の幼馴染みが居ると言ってたのを思い出していた。

 毎日楽しそうに話していて、少し私も気になっていた。

 昔の写真やその人の名前も教えて貰った。


 そのときはどんな人なんだろうという感じだった。

 もし逢えるなら逢ってみたいと、明莉ちゃんの恋を応援したいと、そう思っていた。


 女子達が何やらとある一人の生徒をチラチラと見ながら、何やら噂をしていた。

 その視線を追うと、私は胸を締め付けられた。


 そう、くんだった。


 私は産まれて初めて、恋をした。


 後日その事を明莉ちゃんに言うと、少し悲しそうな顔をしていたのを思い出す。

 流石に一目惚れしたことは言わなかった。

 でも明莉ちゃんが言うには、もっと明るくて皆の中心に居る子だったらしい。




 ★


 その後色々あって、早一年。

 柴崎君と同じクラスになれた、その嬉しさを心の奥底に閉じ込め、いつも変わらない日常を過ごしてきた。


 でも、やっと同じクラスになれた反動か、気付けば私も彼を目で追っていた。

 勉強も運動もそこそこだけど、球技に関しては物凄くセンスがあった。


 そんな最中、ひとつの事件が起こった。

 普段物静かで全く表情を変えない、あの柴崎君が笑ったのだ。


 あの一件で、私の学年で成績一位で優等生のさんが柴崎君と仲良くなっていた。

 本当なら手の届く範囲に居た人が、一気に誰も手の届かないところにいってしまった。


 それでも明莉ちゃんは、張り合っていた。

 そんな明莉ちゃんを凄いとは思いながらも、心の中では振られて欲しいと思っていた。


 そして先週、上野さんが柴崎君に告白してフラれたという話を耳にした。

 居ても立っても居られなかった私は、近い内に彼に告白をしようと思い立った。


 そして今日、人生初の告白をした。

 でも結果はフラれた。


 私は悔しくて、悔しくてつい彼にきつくあたってしまった。

 でもそんな私に対して、優しくしてくれた。


 彼の好きな相手はあの上野さん、その言葉に私は、私の初恋はもう実らないんだなと悟った。

 私はそんな彼に対しての想いを無駄にしたくはなく、一人にさせてと言った。

 

 私は彼が去った後、静かに泣いた。

 一度泣き出したらもう止まらなかった。


 その後、私は青い大空を見上げながら明日の事を考えていた。

 気付けば口からこんな言葉が出た。



「本当に好き…でした」




 ☆




 あの初告白の日から数か月後、渡邉怜奈は年下の彼氏が出来た。

 そんな彼女とのお話はまた別のところで。

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