第18話

《琴音視点》


 翌日、私は喫茶店に向かっていた。

 誰かから呼び出されたとかじゃなく、休みの日の日課みたいなもの。

 しばらくするとお昼時なのに誰もいない、少し静かな喫茶店に着いた。


「いらっしゃいませー、御一人様ですか?」


「ええ」


「ではお好きな席へどうぞ、御注文が御決まりでしたら御呼びください」


 私はいつもの席へ向かい、鞄から一冊の雑誌を取り出した。

 明日は初デート、本当なら男の人が考えるべきなのだろうけど、私は自分で考えたい派な為どうしても譲れない。


「やはり初めてとなると遊園地か、映画なのね…」


 ラノベで定番な遊園地デートや映画デートだが、正直ピンと来なかった。

 中にはゲームセンターや、観光デートみたいなものまであったが、高校生の私たちには少し難しいものだった。


「どうしたの琴音?そんな難しい顔して」


「…あか姉」


 気付けば私の対面の席に座っている私の義姉、上野紅音うえのあかね

 年の差は三つ、現在大学生で私と同じく彼氏はいない。

 

 まあこの場合は居ないというよりあか姉は出来ないんだけど…なんて考えてると


「いたっ…!ちょっとあか姉!」


「なんかムカついた、私はお姉ちゃんなんだぞ?」


 この子供っぽい性格と何より小学生並の身長だ。


「そんなだからあか姉はモテ…ごめんなさい!だから足蹴らないで!」


「…フンッ」


 子供か!って、心の声で突っ込んでるとあか姉は新しいおもちゃを見つけたかのように目を輝かせて


「へえ…?あの琴音がデートねぇ…?」


「…なによ」


「まあどうせフラれて終わりでしょ?琴音」


 あか姉はからかうように言っていたが、私がなにも言い返さない為、気になってか私を見た。


「…もうフラれてる」


「へ?」


「フラれてるって言ったの…」



 ☆


 

「その拓人くん?って子の事は分かった」


「どうすれば良いのかな…」


「んー、どうしたもんかねぇ…」


 義姉とはいえ、義妹の私の為に親身になってくれるそんなあか姉。

 少し子供っぽいけど、私の自慢のお姉ちゃん。


 なんて考えていたら、あか姉は何かを思い出し、自分の鞄の中からとある二枚のチケットを私に差し出した。


「えっ…?これって…」


「近くの水族館のチケット、本当は友達と行く予定だったけど…折角だし琴音にあげる」


 私はチケットを受け取って、ありがとうと言ってその店を出た。


「…琴音、頑張れ」



 ☆



 私はあか姉から貰ったチケットを見て、拓人の楽しそうな顔が思い浮かんでいた。

 いつものクールな拓人だけど、今回ばかりは意識して貰おう。

 そう思っていたら、近くの公園に拓人ともう一人女の子が居た。


「私と付き合ってください!」


 私はその言葉で、心が鷲掴みされたような感覚に陥った。

 逃げ出したかった、でもその場から動けなかった。

 数秒後、拓人はこう口にしていた。


「…ごめん、君とは付き合えない」


「…どうして?」


「どうしてって言われても…」


 私は少し安心してしまった。

 もし付き合われたら、明日のデートが無くなる所だった。

 だが、次の言葉に私は驚きを隠せなかった。


「…他に好きな人がいる」


「そっか…ちなみに誰なのかな?あ、言えないなら別に―」


 拓人と一瞬目が合ったような気がした。

 彼が小さく微笑んだあと







「上野琴音、名前ぐらいは聞いたことあると思うんだけど」








 えっ…たく…と?







 私はその言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

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