第16話

 俺達は、無言のまま帰路についた。

 終始上野の様子がおかしかったが、気にするようなことじゃないと思い、俺は特になにも言わなかった。


 でも最近上野に告白されてから、変な夢を良く見るようになった。

 けど夢に出てくる女の子と上野は全くと言っていい程、似ていない。なんて考えていたら上野が話し掛けてきた。


「…ねえ拓人」

「ん、何?」

「明後日の待ち合わせ場所…なんだけど、駅前で良い?」


(そういや日程だけ決めてたから待ち合わせの場所、すっかり忘れてたな…)


「うん、いいよ駅前で」

「…でも拓人は遠くないかしら?駅前よ?」

「まあちょっと時間掛かるけど、別に早く家出れば良いだけじゃん?」


 場所がどこであれ、早めに出れば済む問題だ。

 余り遠いと文句のひとつも言いたくなるけど、今回はそこまで遠くはない。


「…じゃあ朝の十時に駅前で」

「了解、っとここでお別れか」

「そう…ね」


 顔を俯かせたまま、少し寂しそうな表情をしていた。

 俺はじゃあなと言ってそのまま帰ろうとすると、不意に腕を掴まれた。


「えっと…どうした?」

「…私…から」

「えっ―――」


 その顔は普段からよく見る顔で―


「私!」


 でも普段とは違い真剣な表情で―


「拓人に振り向いてもらうまで!」


 夢の中の少女と上野の顔が重なり―


「絶対に諦めないから!」






 ――気付けば、頬に暖かい感触があった。



 ☆



《琴音視点》



 あの後私は何も覚えてなく、気付けば自分の家の自室のベッドで一人悶えていた。


「うぅ~…やっちゃったぁ~……」


 何であんなこと言っちゃったんだろうか、今日は特に自分でもおかしかった。

 あそこまでずっと一緒にいたことがなかったし、ましてや一緒に帰るだなんて考えてもなかった。


 でも、実際は嬉しかった。

 一緒に居れたこと、途中までだけど帰れたこと、そして何より――


「キス…しちゃったし…」


 頬とはいえ、付き合っていない好きな人にキスをするなんて私ぐらいだろう。

 あぁ、明後日が怖い…


 なんて考えていたら、私のスマホが震え出した。

 もしかしてと思いスマホの画面を見ると、相手は美咲だった。


『明後日、デート行ける!やったー!!』


 喜びたい反面、何故美咲も明後日なのよ…と。

 私は小さくやれば出来るじゃないと言いながら、おめでとうと少し短いが返信した。


「…さてと、明後日に来ていく服考えましょうかね」



《拓人視点》


「…ただいま」

「あ、おかえ…ってにぃにどうしたの?」

「……」

「ちょ、ちょっと…!」


 俺はそのまま自室に行き、そのままベッドの上に倒れ込んだ。

 俺は上野にキスをされた時の事を思い出す。

 その際、夢の中に出ていた謎の少女が上野だったという事実に衝撃を覚えていた。


「…いやまさか、もう十年も経ってるんだぞ…?」


 俺はベッドから起き上がり、古いアルバムを本棚から取り出して、俺とその女の子と一緒に写ってる写真を見つける。


「……」


 お互い幼い頃の面影は無くなっているのに、あの時は妙な懐かしさを感じた。

 今は中学までの事忘れてはいるが、この頃の事は何故か鮮明に覚えている。


 実際は忘れようとしたけど、なかなか忘れられることが出来なかった。

 ――俺の初恋で、大好きだった女の子


 もう十年も経ってはいるが、神の運命の悪戯って奴だろうか?再び再会することが出来た。

 でも今の俺は、誰かを好きになれない。なっちゃいけないんだ…



「……あんな事さえ無ければ」



――俺は中二の頃に事故に遭い、一部感情を失った。

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