第15話

《琴音視点》


 連休に拓斗と一緒に出掛けることを約束してから、拓斗の様子がおかしい。

 話掛けても、何処か上の空だった。


「拓斗、どうしちゃったのかしら…」


 なんて独り言を呟いていたら、何やら上機嫌な美咲が戻ってきた。


「美咲、何か良いことあったの?」

「うん、藤崎くんと一緒にご飯食べれたから…えへへ」


 美咲は顔を赤くしながら、先程の事を思い出しているのだろう。

 素直に喜びたいところなのに、さっきから拓斗の事で頭がいっぱいだった。


「琴音…何かあった?」

「…えっ?」

「いつもなら一緒になって喜んでるのに、さっきから心此処に在らずみたいな感じだし…」


 美咲はそう言いながら、拓斗らの方を見る。


「…なるほどね、こりゃ琴音も――」

「ば、馬鹿なこと言わないの…!」


 確かに拓斗の事を考えてた、考えてたけど!わざわざ言う必要ないでしょ!


「まぁ、何があったかは聞かないであげる」

「…うぅ」


 私は恥ずかしくなり、顔を隠した。


 …今度絶対に仕返ししてやる。



 ――――――――――――――――――――――――――



 それから放課後、私と美咲は、二人で教室に残っていた。


「――あなたまだ藤崎くん誘えてないの…?」

「うぐっ…」

「流石にもう連絡先は交換したんでしょ?」


 美咲は二年に入ってから、ずっとこの調子だ。

 二年になって、もうすぐ一ヶ月が過ぎようとしているのに…


「したけど…」

「ならデートぐらい誘いなさいよ?他の子に取られるわよ?」

「…そういう琴音はどうなのよ」


 不貞腐れながら、頬を膨らませて愚痴ってくるが、生憎もう既に誘ってるし、了承も得ている。


「私?ふふん、もう既に誘ったわよ?」


 私は勝ち誇った顔で、煽るように言った。


「はぁ…分かった。ちゃんとデート誘ってみる!」


 そう言って美咲は、荷物をまとめて教室を飛び出した。


「頑張りなさいよー」


 私は廊下に出た美咲に向かって手を振り、一人で拓斗の席に向かい、椅子に座って茜色に染まる空を見ながら、明後日のことを考えていた。


(明後日は拓斗とデートか…どこ行こっかな?)


 なんて考えていた。

 今日は昨日と違って疲れた。

 無意識の内に、私は彼の席で、少し寝よう、等と考えてしまいそのまま寝てしまった。



 ――――――――――――――――――――――――――



 あれからどれぐらい寝たのだろうか、気付けば外が少しだけ暗くなっていた。

 教室に掛けられている時計を見て、だいぶ寝てしまったなぁと知る。


 すると右の席から人の気配を感じた。


「――やっと起きた、いつまで人の席で寝てんだよ」

「…ふぇ?」


 右の席へ視線を動かすと、そこには拓斗が、少し呆れながら私を見て


「…ほら、さっさと帰るぞ?」


 と言い、優しく微笑んだ。


 そんな私は――彼のその笑顔を何故だか、懐かしく感じ暫くの間見惚れていた。

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