第6話

 俺は自分のクラスに入って周りを見渡す。人は疎らだったので、少々早く来すぎたかなんて考えながら自分の席に向かう。その後に明莉が入ってきた。


「も~たっくん!なんで置いてくの!」

「ボーッとしてるのが悪い」

「むぅ…たっくんの馬鹿」


 明莉はちょっと頬を膨らませ、此方を睨む。本人は怒ってるつもりなんだろうが、俺にとっては全くそんな気がしない。

 すると、俺の席に近付いてくる人が居た。


「よう、拓斗」

「うっす、裕貴」

「相変わらずだなお前は」


 呆れたようにそう呟いたのは、友人の藤崎裕貴ふじさきひろき

 身長は俺より高く、顔立ちも良い。それでいて頭も良くかなりモテる…はずだった。ある一部分を除けば


「…なんでこれでお前は彼女居ねえんだろうな」

「そう言うなよ…」


 そう、こいつは全然と言って良いほどモテない。結構良い奴なんだが、性格が俺と良く似ている為、女子達から敬遠されているようだ。逆に何故か俺は評価が高い。


「そういうたっくんだって居ないじゃん」

「…」

「おい、まさか出来たんじゃ―」

「えっ…」

「いや、まだ居ねえよ」

「「まだ?」」


 俺は急に昨日の事を思い出してしまった。それでうっかり口が滑ってしまい、まだなんて言ってしまった。


「…ねえたっくん」

「ん?」

「昨日何かあったの?」


 女の勘って奴なんだろうか、明莉はとにかく昨日何があったのか聞きたいらしい。裕貴はそうでもないが、明莉は真剣だった。なので細かいことは隠して、言った。


「…昨日、告られた」

「誰に?」

「……上野に」

「えっ―」

「でも断った、こういうの初めてだったから、良く分からないんだ」


 そう言うと明莉はへなへなとその場に座り込み


「…そっかぁ~、良かったぁ」


 なんて言い放った。すると明莉の後ろから


「あら、何が良かったのかしら倉本さん?」

「上野さん!?」


 彼女がすぐ傍に居た。俺は気付いてたが、明莉は全く気付いてなかったようだ。


「い、いやー…そのー…ご、ごめんなさい…」

「…全く、拓斗も堂々と言わないで頂戴。」

「ちょっと待て、誰が名前で呼んで良いって言った」

「別に良いじゃない、私と貴方の仲でしょ?」


 な、何なんだコイツ…というか顔が少し紅いような―


「ちょ、ちょっと!二人とも近いよ!」


 明莉に無理矢理引き剥がされる。そんな明莉は上野を睨んでいる。

「う、上野さん!!」

「何かしら、倉本さん」


 な、なんだこの空気は…あと二人から物凄いオーラが見えるんだが…


「と、とりあえず落ち―」

「「たっくん(拓斗)は黙ってて!!」」


 …息までピッタリ、コイツらもしかして意外と仲良く出来そうな感じがする。なんて考えてたら


「はいはい、琴音そこまでにしときなさい」


 上野の肩を叩きながら、友人らしき人が来た。

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