第5話

 俺は今、夢の中にいる。まだ小さい頃の俺が、悠衣と一緒に父さん達と公園で遊んでる。


 すると、見知らぬ女の子とその子の両親が俺たちと同じ様に遊んでいた。父さんがその子のところに行って挨拶をしていた。

 親同士が盛り上がってる中、俺と悠衣はその女の子と一緒に遊んだ。その女の子と俺は一緒に笑いながら隣に居た。まあ、悠衣はずっと俺の後ろを付いてくるけど


 日が傾き、夕暮れの茜色の空になった時に、それぞれの家に帰る間際女の子が


「――くん!また遊ぼうね!!」


 と言って俺の夢はそこで終わった。

 夢から醒めた俺は壁にかけてある時計を見た。


「まだ六時じゃん…」


 いつもより早く目覚めてしまった。俺は重い体を起こし、登校用の鞄から一冊の本を取り出した。

 昨日から読んでいる小説だ。小説と言っても中身はライトノベルだが…

 昨日の続きから読みながら、無意識にスマホを手に取ると


 一件の通知が来ていた、上野からだった。だが内容が理解出来なかった。なんだよ、名前で呼んで欲しいって…


「告白した時みたいに直接言えば良いのに…」


 俺は小説を鞄へ戻し、壁にもたれ、静かに目を閉じ夢の事を考えていた。


「結局あの子誰だったんだろ…」


 俺は中学までの記憶がない。

 実際にはあるんだろうが、それまでの嫌なことを全て思い出してしまう為、記憶の中から消し去ろうとしてるところだ。だから当然、夢に出てきた女の子の事なんて覚えていない。


 そのままベッドの上で仰向けになり、静かに呟いた。


「…そういや俺昨日上野に告られたんだっけか」


 確かに上野は美人だ、惚れる人も少なくない。だが、何故俺の事を好きになったんだろうか?知らない内に、俺は彼女に何かしたのだろう。直接でなく何処かで


「……はぁ、か」


 そう呟いた俺は、自然と彼女の事を思い出してしまった。普段クールな彼女が俺の前だけよく笑う。その笑った顔を思い出し少しだけ顔が熱く感じた。

 でもこの感情が一体何なのか、今の俺には理解出来なかった。



 ――――――――――――――――――――――――――



 時は過ぎ、学校に着き悠衣と俺はそれぞれのクラスに向かう途中


「あのね、お兄ちゃん」

「なんだ悠衣」

「……ううん、何でもない。今日も頑張ってね」

「…おう」


 悠衣はこうして、寂しそうな顔をしてクラスに向かう。

 …まだ中学の事を気にしてるんだろう、お前は何も悪くない。悪いのは全部俺なんだから


 俺も自分の教室に向かおうとすると、後ろから抱き着く感じで俺に突撃してきた。


「おはよー、たっくん!」

「…おはよ、明莉」

「もう、相変わらず元気ないなぁ」

「お前がうるせえんだよ…」


 彼女の名前は倉本明莉くらもとあかり

 一応小学生の頃からの幼馴染みで、上野を除けば、唯一の女友達。成績や運動は俺とほぼ一緒。だが、料理だけはずば抜けている。

 髪型はポニーテールで、見た目は平均的な女子と変わらないが胸はない。俺とは正反対な性格をしている為、目茶苦茶うるさい。中学の間を除けば、ずっと俺と同じクラスだ。


「そういや悠衣ちゃんは?」

「ついさっき自分のクラスに向かった、んで何のようだ?」

「用が無かったら話しかけちゃ駄目なの?」


 上目遣いで俺を見てくる。そんな目で俺を見るな!おい外野!またとか言うな!


「…はぁ、少しは周りを気にしろ」


 そう告げると、顔を真っ赤にして俺から離れた。


「ボーッとしてないでさっさと行くぞ」

「…あ!待ってよたっくん!!」


 俺は明莉から逃げるように自分達のクラスに向かった。

 ―背後から睨みながら見ている上野の視線に気付きながら


「…むう」

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