35話「Unbreakble Day ~始まる終わり~」


 ___数年前、のことだ。

 

 まだ、世界が【L】による繁栄が起きていない。超常現象もオカルトや都市伝説で片付く程度。科学的進化が中心となった、一世代前の日本。


「輝沙さーん!!」


 学生服。ちょっと古風なイメージの学ラン姿。

 らしい制服に身を包み、髪も男の子らしく短髪でまとめた少年。


 ”我刀潔奈”は笑顔で手を振りながら、校門の前である人物を待つ。


「潔奈くーん!!」


 それに対し、笑顔で手を振り返してくれるのは...

 セーラー服に身を包み、学園でも美人と評判の高嶺の花。輝沙である。


「ごめんね! 生徒会の仕事が遅れちゃって……待った?」

「ううん。僕も、その……今、来たところです」


 潔奈は照れながらも、輝沙の謝罪に対し、そう返す。

 

「それじゃぁ、行こっか!」


 輝沙は息を整え、笑顔で片手を広げる。


「エスコート、お願いだよ?」

「は、はいっ!」


 手をつなぐ二人。






 潔奈と輝沙。

 この二人は……学園でも評判の”カップル”だった。


 潔奈は文武両道、成績優秀容姿端麗の優等生だった。周りの男子からも宿題の手伝いなどに当てにされ、先生からも評価の高い、まさに理想の生徒。


 輝沙もまた学園のマドンナと呼ばれるほどに優等生。生徒会役員として日々奮闘する頑張り屋として、男子女子共に人気の高い女の子だった。



「潔奈くーん? そろそろ、敬語やめてほしいって言ってるじゃん~?」


 頬を膨らませながら、輝沙は問う。


 この二人の付き合いは、中学生時代からであったとされている。

 潔奈はサッカー部に所属しており、潔奈はそこのマネージャーだったらしい。二年を交際を得て、そのまま二人は一緒の高校へ進学。それからも、時間を合わせてはこうして”デート”へ向かう仲であった。


「ご、ごめんなさい。癖、でして」


 だが、輝沙には一つ不満があった。

 それは、潔奈が一向に”敬語をやめないこと”だった。


「まぁ、それが潔奈くんの良いところなんだけどね~。でも、そうやっていつも敬語で話されると、他人行儀の気がして、少し寂しいよ?」

「な、なんとか。頑張ります、輝沙……さん」

「ぶーーーっ!」


 どうして、敬語が外れない潔奈に不満全開だった。


「……そういえば、話聞いたよ」


 不満な表情、ではあった。

 だが、そこから輝沙は徐々に”不安”の表情に変わっていく。


「また、喧嘩に巻き込まれたって」

「あぁ……その、気にしないでください。怪我はしてませんから」

 潔奈は、自身の手を見る。

「それに、相手にも怪我はさせていません」

 傷一つない綺麗な腕。


「それに慣れてます。こういう”挨拶”はいつものことです」


 彼の言う挨拶……

 それは、人類から一生離れることのない悪夢。


 ”差別によるイジメ”だった。



 我刀潔奈。

 彼は古くより……”暗殺”を目的とした、一族の末裔である。


 故に、彼は小学校時代から噂を広められ、陰で悪口を言われる立場でもあった。今の栄光は努力により勝ち取ってこそいるが、その地位から叩き落そうと考える根暗で陰湿な人間は幾らでもいる。


 そうして、ほぼ毎週のように、妙な集団から襲われるくらいには。



 しかし、彼はそれにも対応する。

 古くから教わったとされている”暗殺拳”。


 それを、人を殺さない程度。気を失わせる程度の”自衛手段”として利用して。



「慣れたとかそういう問題じゃないんだよ、潔奈くん!」


 しかし、輝沙はそれに対し喝を入れる。


「潔奈君がケガしないかなんてわからないし、君が相手をケガさせないかもわからない……怖いんだよ。毎日」


 いつも、ほぼ、いつものように心配する。

 例えどうしようもない事だと分かっていても。彼が慣れた事だと言い切ってしまうほどに恒例行事になってしまったとしても。


 その出来事が、いつか消えてほしいと願って。



「ごめんなさい」


 潔奈はしっかりと謝罪した。

 慣れたとかそういう問題じゃない。そういう返答をしてしまったことに対しての謝罪を。


「さぁ、行きましょう!」


 輝沙の手を引き、潔奈は街へと向かう。

 今日は何処へ向かおうか。ゲームセンターか、喫茶店か。


 嫌なことを忘れに。今日も幸せを感じるために、二人は笑顔で走り始めていた。




「……んん?」


 しかし、街へ向かう最中。二人は足を止める。







 ……道路の真ん中に人がいる。

 身長はざっと190以上はある。そんな大男が堂々と、道路の前で立っていた。


 通せんぼ、をしているように見える。


「なんだろう」


 潔奈は見上げながら、問いかける。



「あの……」


 大男は、潔奈の方を見ていない。

 その隣にいる……”輝沙”の方を見ていた。




「あの、私に何か、」








「ヒヒッ」




 大男が笑った。

 そして____




「____!!!!!」


 一瞬にして、輝沙は、




 ”炎に呑み込まれた”。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 あれは、あまりにも一瞬の出来事で、何が起きたのか理解が出来なかった。

 

 大男が突然笑い出したかと思うと、口から”火”を吹いたのである。


 輝沙の体は一瞬で燃え盛り、悲鳴とも思えない嗚咽が辺りに響いた。

 一心不乱。潔奈は近くにあった自動販売機から次々と飲み物を購入し、輝沙の燃え盛る体にかけた。火が消えるまで。





 あの日、火こそ消えた。

 しかし、少女の体に大きな傷が残った。


「……」


 その日が、始まりだった。





 ”我刀潔奈”が、一族の人間として血を呼び覚ましたのは。




 真っ白だった。

 そうする以外の選択肢なんて、ないと思っていた。











 その日が始まり。







 ”潔奈は、その暗殺拳を、初めて人殺しに使ったのだ”。


 大男を殺した。何の躊躇いもなく殺した。

 当然、周りはパニックになった。


 潔奈は、傷だらけになった輝沙を使ってあの場から逃げた。


 何もかもが、分からなくなった。




「僕は……」


 

 ___思い出したくもない記憶。

 ___始まりであるが故に、こびりついた記憶。



「ねぇ、輝沙……」




 ___あの、始まりの日に。

 ___世界が変革を起こした、あのすべての始まりの瞬間に。




 ___突如、姿を現した”謎の少年”。

 ___和服姿の少年。この世界に住む誰もなら、もう知らない人間がいない。




 ___始まりの【L】。

 ___種の始まりの一人。


 ___”天王”と呼ばれた男、”浮楽園愛蘭”



「どうすれば……僕は、君を救えるんだろうか……」



 一人で乗るには広すぎるリムジンの中。

 ガトウは、汚れ切った拳で顔を覆い、その現実に打ちひしがれていた。

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