第13話 RTAと正しい職業選択

「さて、本格的にプレイに入ってもらう前に、ラプソディ・トゥ・アクトの攻略状況について伝えておこう」

 オカダは紙の束を手渡してきた。週刊誌くらいの分厚さがあった。簡易製本されている。

「開いてみてくれ」

 ぼくは親指で本の小口を押さえ、パラパラとめくった。やはり、ラプソディ・トゥ・アクトの説明書、あるいは攻略本のようだった。

「6ページめを見てもらおう」

 指示通りに開く。そのページには見覚えがあった。

「そう、そこには君がプレイをしたときに、ネザニから受け取ったものと同じものが書かれている。すべて目を通してみてくれ」


<ブレーディアン>

 攻守のバランスに秀でた近接戦闘特化職。

 剣を始め、重い武具を難なく身に着け、肉弾戦で敵を粉砕する。盾を携え、カウンターを駆使した戦い方も可能。ただし、魔術の素養はなく、魔法はほとんど習得できない。

 ブレーディアンと呼ぶにふさわしい華麗な剣戟と強靭な肉体で、最前線へと躊躇なく斬り込んでいく……。


 最初の職業選択の際、見た説明。ブレーディアンについての絵と文章。ということは……。次のページをめくると、取り上げられている職業は、ウィザードに変わった。


<ウィザード>

 魔力を強大な攻撃力に変え敵を殲滅する、遠距離戦闘特化職。

 肉体的な力には乏しく、斧や剣などを用いた物理的な戦闘は不得手だが、火炎、雷撃など自然のエネルギーを武器として戦う。

 攻撃に対してはきわめて脆いため、敵との距離を置いて戦闘に臨む必要があるが、ウィザードが扱うさまざまな呪文はそれを可能とする……。

 

 さらにページをめくる。


<ベアハンズ>

 己の肉体を武器に戦う格闘家。素手での戦闘技術は高く身軽な動きを特徴とすし、ブレーディアン以上に近接での戦闘を得意とする。自らよりも遥かに巨大な敵すらもその身一つで沈めてしまう。

 武具の装備に慣れていないことと、魔力に乏しいことが欠点。しかし、成長とともに身につける多くの特技は、魔法に劣らず多彩な効果を持つ……。


<シーフ>

 数々の道具を使い、変幻自在な戦い方で相手を翻弄する盗賊。その手先の器用さは、戦闘中の敵から気づかれないままに持ち物を奪うことすらできるほど。

 物理的な力こそさほどないものの、シーフの得意とする敵の急所を的確に突く攻撃は、まるで舞踏のように鮮やか。道中に遭遇する宝箱の解錠や罠の回避もお手のもの……。


<クレリック>

 神への厚い信仰により、崇高な力を得るにいたった聖職者。クレリックにとって鍛錬すべきは肉体ではなくその精神であり、決して挫けることのない強靭な精神力を持つ。

 肉弾戦は不得手で、身体は脆く傷つきやすいが、怪我や病を治す癒しの力に加え、身に纏う加護の力が怪物との戦闘をも可能にする……。


<インヴォーカー>

 特別な呪術を用いて、敵を恐怖と混乱に陥れる背徳の術士。精神を惑わせる術のほか、優れたインヴォーカーになれば霊との交信により、死者を味方として使役することができる。

 平均的な力は他の職業に劣るものばかりではあるが、敵を蝕む技を多く扱い、自らは非力なままでも戦闘を有利に進められる。インヴォーカーを忌み嫌う土地もあり、そこでは異端の存在とされている……。


 要点だけではあるが、すべての職業についての解説を一通り読み終えた。顔を上げる。

「さて、もし君がソロプレイでラプソディ・トゥ・アクトを最速で攻略しようとするのなら、いったいどの職業を選ぶ?」

 オカダがぼくに問いかける。

「ソロプレイで、ですか」

ぼくは考える。あまり聞き慣れない職業の名こそあるが、役割としてはどれも標準的なRPGと大差はないようだった。もう一度説明書を読み返す。やはり、これだろうか。


「……ベアハンズ」

 オカダの眉が上がった。

「理由は……?」

「6つの職業は、2つの軸で、それぞれ異なるグループ分けができます。まずわかりやすいのが、物理的な戦い方を得意とするか、魔法などを用いた術士的な戦い方を得意とするか。前者に属するのがブレーディアン、ベアハンズ、シーフ。後者がウィザード、クレリック、インヴォーカー。もう一つの分け方は攻撃型か補助型か、です。攻撃型となるのはブレーディアン、ベアハンズ、ウィザード。補助型になるのはシーフ、クレリック、インヴォーカーです」

「なるほど、それで?」

オカダが表情を変えず聞き続けている。

「まず、これは一般的なRPGにおいていえることですが、魔法などを用いるタイプのキャラクターはMP、つまりマジックポイントなどが代表的な例になりますが、術を発動するのに必要な専用の数値が設定されています。術士タイプはこれが不足すると途端に機能しなくなるため、回復アイテムが欠かせないのですが、RTAにおいてはそういったアイテムを集める時間はそのままロスに繋がります。したがって、物理タイプと魔法タイプであれば物理タイプの方が都合が良い。さらに、当然ソロプレイに限ると、補助型のキャラクター一人ではとても戦闘にならない。したがってブレーディアンかベアハンズが候補となります」

「ではなぜ、ベアハンズに?」

「素早さです。おそらくブレーディアンとベアハンズとではベアハンズのほうが装備に制限がある分、素早さが高く設定されている。これは戦う相手の先手を取れるということです。それはそのままタイムの短縮に繋がります」


 オカダが笑った。

「さすがだな。君は……。よし。まずは、これを見てもらおう」

 オカダが新たに取り出したのは、スギハラが持ってきたSSDと同じ見た目のものだった。

「なんです、それは」

「ここには、ヤン・リーニャンのプレイが録画されている。つまり、ヤン・リーニャンのプレイチャートというわけだ」

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