第11話 仲間との対面
巨大なスノードームのようだ。そう思った。細部の設えで、電機的な物体だとはわかるが、2、3人用のテントくらいほどの大きさはあるだろうか。透明な半球体のドームの中に、泳ぐようにしてたゆたう細かな金属部品が見える。そして、表面にはくぼみがある。これは一体……。
視線を上げると、一人の男がこちらを見ていた。背の高い、やや歳のいったスーツ姿の男だった。
「おれの上司のオカダさんだ」
スギハラが言う。
「はじめまして、タカギくん」
高身長の年長者から握手を求められた経験がないからだろうか。真面目そうな風貌ではあったが、威圧されているような気がした。ごくわずかに白髪の交じるオールバックの髪型からも、ゲームばかりの自分とは別世界の住人だという雰囲気が伝わってきた。
「スギハラから聞いているとは思うが……」
ほとんど何も話してません。と後ろからスギハラのおどけた声がした。オカダがスギハラを鋭く睨んだ。
「まあ、簡潔に説明しよう。まずは細かく、具体的な話からだ。この部屋は、ゲームをするための部屋だ。ラプソディ・トゥ・アクトをプレイするために作ってある。君が気になっている様子のこれは、ゲーミングチェアだ。専用のな」
オカダはスノードームを軽く叩いた。柔らかそうに少しだけ揺れた。
「この部屋自体はうちの会社の会議室を、少しばかり作り変えたものだ。ずっと借り切ってあるが、基本的にここに出入りできるのは、私と、スギハラと、君の三人だけだ」
会社……。スーツ姿の通り、会社員ということだろうか。
「もしかして、ラプソディ・トゥ・アクトの……?」
「残念ながら違う」
即答。
「私とスギハラは、ゲームなんて無縁のただのサラリーマンだ」
スギハラには“ただのサラリーマン”なんて言葉は似合わないと思うが。
「ただ、私たちの客は別だ。あらゆるシステムを扱う我々の客には、ゲームを愛する客もいた。客の要望はこうだった。とてつもなく巨大なゲームを、できるかぎり早くクリアしてほしい、と。客が言うには、その巨大なゲームを一定の時間内にクリアすることができれば、この現実世界でも莫大な価値を持つ宝物が手に入るんだそうだ」
オカダは、現実離れした話を、いたって真剣な口調で、語った。まるで、虚構と現実の区別がついていないゲーム廃人のように。
「つまり、君には、ラプソディ・トゥ・アクトのタイムアタックに挑戦してもらいたい。それも君の得意なRTAでだ」
「……まだ、ごく一部しかプレイしていませんが、あれほどの超大作、スギハラから聞いた“クリアに一年はかかる”というのも、まんざら嘘でもなさそうです。そんなとてつもない規模のゲームを、一体どれくらいの時間でクリアしろというんですか?」
「10日間、240時間だ」
オカダはさらりと言い放った。
僕は面食らった。それは二つの意味で。クリアに一年間かかるのが普通だというゲームをそれだけの短時間でクリアしなければならないという点が一つ。そして、RTAを240時間ぶっ続けでプレイしなければいけないという点がもう一つ。
詳しい話の前に、君の仲間になる人物をもう一人紹介しよう。オカダは、タブレットを取り出した。こちらに向けられた画面には少女のキャラクターの姿が映っていた。キャラクターは精巧なモデリングのようだった。ゆっくりと動き、声を発した。
「ユカと申します。タカギさんと一緒にラプソディ・トゥ・アクトをプレイさせていただきます。よろしくお願いします」
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