第6話 コナクヨとロガビア
「ほう、ブレーディアンか。アランよ。その勇猛さこそが、あの戦火からそなたを生き延びさせたわけだな」
ここに来る前に見た凄惨な景色も、オープニングの一部だったというわけだろうか。勇猛さなんて発揮する機会はなかったが。きっとすべての職業に対してなんらかの理由付けがあるのだろう。
「アラン、多くの仲間を失い、さぞや悲しいだろう。それは我も同じこと。我が国の、我が都市の兵が、民が、一人また一人と死んでいくのが耐え難く辛いのだ」
ザイオンはそういうと、悲しげに首を振った。白く長い髪がかすかに揺れる。
「一刻も早く、憎き敵国、<コナクヨ>に我々も痛みを思い知らせてやらねばならん。アラン、そのためにそなたも戦ってくれるか」
間。あたりの人々は、ぼくの答えを待っている。
「……はい」
とりあえずの答えだ。
「よくぞいった。みな、死の淵から舞い戻り、我が軍の旗手となるアランを讃えよ」
広間の人々がみな歓声を上げた。ひげの男も大きく拍手をしている。
「それでは、そなたに一つ、命を下そう」
活気で満たされていた広間が一瞬にして静まり返る。
「コナクヨが持つ兵器『コナクヨトギ』を我が軍のものとせよ。その力があれば、この戦争はすぐに終わりを迎える。詳しいことは、ネザニ、頼んだぞ」
「はっ。ザイオン様」
ひげの男が腕を折りたたみ、しゃがんで返事をした。ネザニというのか。おそらく、彼がチュートリアル役を担ってくれるんだろう。
ザイオンは退出していった。それに続き、従者たちもザイオンを囲むようにして広間の奥へと消えていった。
「おい、アラン、おれたちはこっちだ。ついてこい」
ぼくはネザニの言葉に従おうとする。だが、ぼくは歩けるのか? トレッドミルは設置していないのに。
ネザニは広間の正面扉を抜けて、階段を降りていく。天井から差し込む光が眩しい。
「何をしている、こい」ネザニは振り返ってそう言った。
歩く。歩ける。どういう仕組みなんだ。センサースーツがぼくの足の裏に、それとも脳に、歩いたときの感触を送っているのだろうか。
駆け足でネザニに追いつく。
好奇心は増していく。このゲームはいったい、どこまでのことができるんだろうか。質問をしてみる。
「どこに向かうんですか」
「兵舎だ。ザイオン様が言われたように、そこでおまえに我々の置かれている現況を伝える。おまえの装備していた武具も兵舎の中に置いてある」
ネザニは流暢に回答した。
「今日は何月何日ですか?」
「やはり記憶が不確かなようだな。今日は13の月、8日だ」
13……? 現実世界とは異なる特殊な暦だろうか。
プログラムはどこまでプレイヤーの行動を想定しているのだろうか。ネザニを後ろから叩いてみたい気持ちに駆られたが、捕らえられてゲームオーバー。ということもあり得る。最悪のパターンだと、ゲームオーバーどころか、牢屋に入れられてなおプレイを続行しなければならない可能性だってあるだろう。
その間に、ネザニとぼくは、巨大な扉の前にまで来ていた。ネザニが扉の左右に立つ兵士たちに合図を出すと、兵士らはそれぞれの全体重を以て扉を押し、開いてくれた。
強い光に思わず、腕で顔を覆った。陽光、かすかに暖かい。
ぼくの仕草にネザニが笑う。
「久しぶりの陽の光か、無理もないな」
この世界のぼく、アランに対して言ったのだろうが、現実世界のぼくも同じようなものだった。これほどの直射日光を浴びたのはいつ以来だろうか。
「ほら、兵舎はそこだ、入るぞ」
兵舎、という言葉からなんとなくさびれたイメージを持っていたが、ネザニに指さされたそれは、美術館や博物館と呼んでも通用しそうなほど大きく立派な建物だった。
壮大さに立ち止まってしまったぼくを見て、ネザニがしたり顔で言った。
「ここが、ティカベイル第二都市、我がロガビア軍の総本拠地だ」
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