第9話 Rehab
純の趣味は天体観測。彼は毎夜のように自宅のベランダで天体観測をしている。
多摩センターの駅近のマンションに住む、彼の両隣にはクラスメイトが住んでいる。
向かって右隣が
今夜も純はベランダで、天体観測をしていた…。
⭐︎
(お前は星が好きなんだな。)
「別に好きと言う訳じゃないんだけど。」
(今は何を探しているんだ?)
「シリウスだよ。おおいぬ座にある恒星。肉眼でも見えるんだけどね。」
(不思議な男だな、お前は。)
「そうかな? でも楽しいよ。毎日かわる表情が綺麗なんだ。」
🔭
俺の住むマンションは8階層だ。自宅は7階。幸運にも、俺が観察をしたい方角には、背の高いビルがない。
高層ビルは観察の邪魔をする。星たちは大気圏外にあるが、下から照らされるビルの明かりは、観察の邪魔をする。世界最大のハップルさんの近くでさえ、周りには照明施設はない。そんな中、街明かりに邪魔をされながら観察をする俺ってスゲー。
(ところで、最近はこのアーティストが好きなのか?)
iMacから流れる曲を指摘された。
「うん。
(武田先生か?)
「そうだよ、よくわかったね。」
(今、聞いている曲は武田先生の気持ちみたいだな。)
「曲? 海外のアーティストの時はスコアって言うんだよ。」
(ウッソ〜! マジで〜!)
「あっ…。それやめて…。」
えっと、今のスコアは…。
ケースに入ったスコアカードを見る俺。
「いや、俺男だし。グッチのバッグなんて持ってないし。ハイヒール履かないし! てゆーか、英語わかるの?」
(英語はわからないが、言葉はわかる。お前こそわかるのか?)
「英文科ですから…。ちなみにSo dust off your fuck me pumps.って、君のパンプス、ホコリだらけじゃん。かな?」
(そんな感じだな。)
実は俺が今、話をしている相手。大変お世話になっている僕の守護霊だ。何故かはわからないけど、こうやって話ができるのは自宅にいる時だけだ。
そして以前、昭和女子の際に俺を助けなかったのは、
(お? 彼女が出てきたぞ。)
彼女じゃないし…。
「純君。」
隣のベランダから身を乗り出して、万理さんが話しかけてきた。
「万理さん! おっとろしいって!」
「は? なんて?」
訛りを
クソッ!
「そんなに身を乗り出したら危ないよぉ。」
「ああ、そう言うことね。それじゃ純君の部屋に行ってもいい?」
「別に…。かまわない…。」
「ちょっと待った!」
今度は井本さんだ。
「やだ〜
「う、うるさい! 万理の方が怪しいわよ。」
(純君、モッテモテ〜!)
やめて…。
ちなみに万里さんと井本さんは幼馴染みらしい。幼稚園の時から仲良しで、クラスも一緒だったと言う。
まあ、東京は小学校、中学校
東京に対し、佐賀は5クラス位あった。中学は11クラスもあったのに。
「純? どした? 何を騒いでっと?」
「父さん? お疲れ、今日は早いね。」
「ああ、ただいま。てかワガァモテモテだな! 腹立つ!」
「腹立つって…。」
息子に腹立ててどうすんだって…。
「純君パパ! お帰りなさい!」
「おお! 香織ちゃんこんばんは!」
おいオッサン、鼻の下が伸びているぞ?
「純君パパ! お帰り! チーズケーキ焼いたんだけど、今から持って行ってもいい?」
「ええ!? がばすごかね! 万里ちゃんが焼いたと?」
「ちょっと待って! 純君パパ! 私もね、シフォンケーキ焼いたから、今から持って行っても
いい?」
「おお!? 香織ちゃんもかね? 2人ともいらっしゃいね!」
え? 何これ? 確かに明日は土曜日でやすみだけど…。
(純君、俺もケーキ食べたい!)
あんたは食えんっしょ…。
🏠
ピンポーン。
ベルと同時に黄色い声が炸裂する
父さんと母さんは、女子が家にいる事が嬉しいらしい。あまり会話をしない男子よりも、やーらしか女子が2人もいた方が楽しくて仕方がないのであろう…。
《やーらしか = 可愛らしい》
そして俺の部屋のドアが開く。
「純くーん! リビングに来てー! トントン。」
「万理さん、ノックは最初でしょう。ドアを開けてから…。」
「はい、行こうね!」
何これ? せめて最後まで言わせて!
万里さんに手を引かれ、俺はリビングに連行された。
リビングに行くと、父さんが楽しそうに
母さんと井本さんはキッチンでコーヒーの用意をしていた。
(なあ純。チーズケーキってパイオツみたいだな。)
「いや、それはシフォンケーキだ。」
俺の独り言に井本さんが反応する。
「…ん? 純君どうしたの?」
「あぁ、気にしないで香織ちゃん。この子はたまに誰かと話すのよ。」
言い方!!
母さん、まるで俺が危ない人みたいじゃんよ!
「純君は守護霊と話をしているんでしょ?」
万里さんが俺をかばうように言ってくれたが、
「んなわけなかとね! 万理ちゃんは、がばい優しいな!」
父さんが全否定する。
てかおい! 俺で盛り上がるな!
「純君、大丈夫だよ。私はわかっているからね!」
万理さん、別にいいのに…。
そんな事よりも今日はシリウス流星群が一番綺麗に見える日なんだよな…。早く部屋に戻りたいんだけど…。
🔭
ケーキを食べ終え、俺は2人にお礼を言って自室に戻ろうと、席を立ち上がる。すると、井本さんが俺に話しかけてきた。
「ねえ純君。今夜はシリウス流星群でしょ? 私も一緒に望遠鏡で見たいんだけど、ダメかな?」
「別にかまわないけど…。」
「うん、そうだね。香織だけ呼ばないのもナンだしね。」
万理さん? あなたも最初から、お誘いはしておりませんが?
「香織ちゃんも万里ちゃんも、こんな男のドコがよかとね?」
父さんよ? 何故そこまで俺を否定する?
「それな! 本当、今の子はわからんて…。」
母よ、自分の息子に対して言うことか? しっかも、深いため息をしながらって…。
「それじゃ、片付けて準備してくるね。」
「そうだね、ささと片付けちゃおう!」
そう言って立ち上がる、井本さんと万理さん。
「あっ。片付けは俺がやるからいいよ。」
「あっ。片付けは俺がやるからいいよ。」
おい、クソ親父! なぜ真似をする!?
「あっ。片付けは俺がやるからいいよ。」
母さんまで…。
トホホ…。
🔭
片付けが終わり、部屋に行く。
望遠鏡はセッティング済み。
後はカメラだ。
爺ちゃんからもらった、
爺ちゃんありがとう。感謝だぜ!
爺ちゃんも新しいEosが買えて良かったね。
露出を合わせて…。
レンズ越しだと難しいんだよな…。
シャッタースピードはこのくらいかな?
(純、1人目の彼女が来たぞ。)
うん。もうちょっとで…。
「純君。お邪魔しますね。」
「うん、いらっしゃい。後少しでセッティングできるから…。ごめんね…。」
俺は井本さんにそう言って、カメラの露出を合わせていた。
「井本さん、寒くない?」
「うん、大丈夫。ブランケット持ってきたから…。」
井本さんを見ると、極太のジャージを履いている。だが
「あはは。井本さんモコモコしているね。」
「うん。やっぱ夜は冷えますからなー。」
「そうだね。無理しないで、疲れたら気にしないで帰ってね。」
そう言って俺は井本さんに星座表を渡した。
「懐かしいでしょ? 使い方は覚えている?」
「懐かしい! 大丈夫だよ、覚えている。」
(もう2人目の彼女も来たぞ。)
「じゅーん君。」
「いらっしゃい。てか薄着!」
「うん寒い。純君、何か着る物ある?」
「ちょっと万理! ずるい!」
鋭い目つきになる井本さん。
2人の会話にめんどくささを感じた俺は、そそくさと服を用意した。
「あぁっと…。パーカーとアウター。ここに置くから冷えたと思ったらどうぞ。」
そして星座表を万理さんに渡すと。
「ねえ純君。これどうやって使うの?」
「普通に…。」
「普通にって。純君、照れちゃって。」
そうさ、照れている。
万理さんと話をする事が、恥ずかしいんだ。
霊体として、僕の前に現れた時…その…お尻をパンチしたり…。
あと…抱きつかれたりして…。
しかも…万理さんって、綺麗な人だと思ってしまったからだ。
そんな自分に、嫌悪感を抱いている。
「そろそろだよ。シリウスから放射状に現れる時もあるから…。」
俺が2人にそう言うと。
「シリウスってあれだよね。」
井本さん、なんでもそつ無くこなすな。
「ねえ、ちょっと。どうやって見るのよ。私にも教えなさいよ。」
「万理さん…。先におおいぬ座を出して、方角を合わせて…。あれだよ、オリオン座の下の。」
「おお! あれだね! あっ流れた! 見た見た? すっごーい!」
万理さんって、霊体の時と変わらないな…。
そんな中、天体ショーが始まる。
冬の大三角の一つ。
おおいぬ座のシリウス。
まるで星たちがシリウスから生まれているようだ。
夜空を流れる星たち。
俺たち3人は、うっすらと伸びては消える星に
「ねえ香織。明日なんだけどさ。時間ある?」
夜空を見上げながら、万理さんが言った。
「あるけど。」
2人は星を見ながら話している。
「1ヶ月以上、動けなかったからさ、リハビリ…。一緒にお願いしたいんだけど…。」
「うーん…。純君も一緒ならいいよ。」
井本さんは少し意地悪そうに言う。でも笑顔だ。
(だってよ純。どうせ、寝ているだけで、用事なんてないだろ? ちょうどいいじゃないか。純は万理と普通に話せるようにリハブだ。)
「そうだね。俺も一緒に行こうかな。公園を歩いて、その後にバドミントンをやろうか?」
「純君、やる気満々だね。」
井本さんと万理さん。なんだか険悪なムードだったけど、良かった。
2人を照らす流星群が友情をつなぎ止めたんだな。
(そうと決まったら、明日のB・G・M はAmy Winehouseの
「そうだね。でもあのスコアは依存症患者のRehabなんだけどね。」
俺がそう言うと。
「え? なんて?」
声を合わせて俺に聞く、井本さんと万理さん。
クソっ!
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