第8話 本当は見えてるけど
東京都 多摩市に住む、
無事、都立高校に入学した赤城君のスクールライフのスタート。
🏫
連休明け。
久々に顔を会わせるクラスメイト。
俺の通う高校、都立高校というだけあって、生徒のほとんどが地元の中学からの入学。
佐賀から来た俺には知り合いなんていない。そんな訳で、俺は早くも孤立していた。
いわゆる、グループに入れなかったわけだ。
連休明けというだけあって、あちこちで飛び交う、お土産ラッシュ。
「これ、ネズミーランドのお土産ぇ!」
「うっそー! ありがとぉ!」
嘘じゃねぇよ、貰ってんじゃねえか! 東京女子は何かと「嘘」と言う。これが俺にとって、ものすごく
「赤城君、おはよう。」
おっと?
「お、 おはよう。」
そうそう俺には唯一、挨拶をしてくれる女子がいる。隣の席の
井本さんはクラス委員をしている。井本さんは、ボッチの俺に毎朝、挨拶をしてくれる良い人だ。
そんな中、俺はある視線に気がつく。
その視線に気付くのはいつもの事だが。その視線の主、毎朝、窓際に設置された棚に座っている。
昭和を思わせるセーラー服を着たその女子は、何かと俺に視線を送る。ある意味、俺に夢中の昭和女子だ。
その女子は俺が教室に入ると、必ず俺の近くをウロチョロする。
テンションが上がると、俺の背中に寄りかかる。これがけっこう重い。迷惑だ…。あと、俺と井本さんが会話を始めると、必ず邪魔をしてくる。
そして今もそう。
「赤城君はどこか遊びに行ったの?」
(ねぇ。見えてるんでしょ〜?)
「別に、行きたいところなんて無いから…。出かけなかった…。」
(おぉ? クールな返答だね。うぇ〜い!)
「そ、そうなんだ…。」
(早っ! 話終わりかよ! 気の利いたこと言ってやりなよ!)
「井本さんは?出かけたの?」
(ほら〜! 今のは私の声に反応したでしょ?聞こえているんでしょ? うぇ〜い!)
「妹をヒューロランドに連れて行ったけど、親子連れが多くて凄かったよ。」
(ヒューロランドって何よ? ピューロランドとは別物? ねぇ、教えなさいよ。)
昭和女子はそう言って俺にもたれ掛かる。
重い…。
「そ、そうなんだ。でも、妹さんは楽しかったんじゃない? 井本さんって優しいもんね。」
(ウッヒョ〜! 何よその言い方は! この流れで告っちゃうのかい? )
「そんな事ないよ…。」
(おっと? 今がチャンスじゃね? 行くんじゃね? Goじゃね? )
ここで
しばらくすると、担任の登場だ。
引き違いのドアをスライドさせ、入ってくる担任。
「席につけー!」
先生の一言で席につくクラスメイト。昭和女子も席につく。座るのは俺の机にだが…。
ちなみにこの昭和女子、実は幽霊だ。俺にはどうやら見えるらしい。
俺が霊的物体を見えるようになったのはいつからだろう…。覚えていないけど、物心がついた頃には見えていた。
そして俺がこの昭和女子を初めて見たのは入試の時。不覚にも目が合ってしまったのだ。これは男だったら仕方がない。この昭和女子、あまりにも美人だからだ。例えるなら俺の大好きなアーティストのアリアナ・グランデに似ている。
普段だったら、人間と幽霊の区別は気配でわかる。だが、その時は入試。色々な制服を着た生徒がいる中、全く気にしていなかったのだ。
俺は試験中も、昭和女子に、ずうっと話しかけられた。
(今、見たよね? 目が合ったよね?)
(無視をするなコラ!)
みたいな感じで…。
それは全ての試験科目と面接の時もだ。そんな中で無事、合格ができた俺って、すごいと思う。
あんな綺麗な女性に抱きつかれたり、耳元で囁かれたりしたのに、平常心を保てたからだ。
だったら話しかけて仲良くなれば? と思うかもしれない。だが仲良くなんて、できる訳が無い。相手は幽霊、またの名を化け物だから。
それに、幽霊って一度話しかけると、二度と離れない。いわゆる、取り憑かれる訳だ。ホラー映画の中でも有名な、ポルターガイスト。あんな惨劇が実際に起こりえる訳だ。
本当、あんなのはゴメンだ…。
そして、最近の昭和女子は日に日にオラついてきている。今もそうだが、俺の邪魔をしてくる。授業中に俺の机に座り、ノートを撮らせない。そんな時、俺は消しゴムを使うフリをして、昭和女子のお尻をパンチする。全身の力を込めてだ。何度も何度もパンチを繰り出す。(きゃっ! エッチ!)と言われるが、ここで照れた素振りをすれば、実はお前の事が見えているんですよぉ。とバレてしまう。
トイレもそうだ。女子なのに男子トイレに入ってくる。俺が用を足していると、目の前にいる。たまに顔を真っ赤になるところを見ると、確実に俺のムスコを見たに違いない。エロ昭和女子め…。
🏫
昼休み。
ボッチのお昼はボッチ飯。
昼休みになると、屋上が解放される。俺がいた中学は屋上なんて解放されない。東京はハイカラだ。
俺はいつも屋上のギンバで食べている。
(今日のおかずはなんだい?)
「今日は…。今日のおかずは何かなぁ?」
あっぶなか! 返事するところだった!
(ん? 今、返事したでしょ? ねぇねぇ! いい加減ゲロっちゃいなよ! あははは!)
昭和女子…、うっざ…。でも、何気に助かっている…。毎日1人じゃさすがにヘコむからな。
お弁当を食べ終わり、教室に戻ると井本さんが友達と何やら話している。
しかも井本さん顔、真っ赤。
「戻ってきたよ。」
井本さんに言う一緒にいる友達。
なんだ?
「あの、赤城君。」
(これは告られんじゃね?)
「はい。どうしました?」
「お昼って、どこで食べているの?」
「屋上だけど…。なんかヤバいのかな?」
「別に…。そう言う訳じゃ…。」
あれ? もしかして、本当はダメだけど、本人には言いづらい的な感じかな?
「あぁ。明日からは教室で食べることにするよ。」
俺がそう言うと、井本さんの友達が会話に入ってきた。
「赤城君ってさ、佐賀から来たばっかでしょ? こっちの事よくわからないだろうから、しばらくは私達と一緒にお昼しない? 女子とじゃ嫌かな?」
(いいじゃん。そうしなよ。)
「うん。そうだね…。」
ヤッバ!?
(おーい! 今のはビンゴだろ! 確実に私への返答だろ!)
「それじゃ決まりだね。ところで私たちも屋上に行ったけど、赤城君、見当たらなかったけど?」
(いい加減に認めろよぉ。認めてくれないと私はお前の名前を呼べないんだよぉ。)
何それ? 幽霊ってそうなの?
「あぁ。ギンバにいたけど?」
「何て? ギンバ?」
(何て? ギンバ?)
3人で声を合わすな!!
「えっと…。ギンバ。ここのここ。」
俺は指で机をなぞり、屋上の俺がいた場所を説明した。
「ぷぷっ! スミっこね! あははは!」
(ぷぷっ! スミっこね! あははは!)
だから3人でユニゾンするなっちゅーの!
そして笑いながら、昭和女子が井本さんにもたれ掛かる。
「うっ…。」
体勢を崩す井本さん。
後ろに倒れそうになった井本さんを 俺は両腕で抱き上げた。いわゆる一つのお姫様抱っこだ。
「井本さん、大丈夫?」
「はい。大丈夫です…。」
(ありゃ〜。ごめんごめん。)
俺が井本さんを腕から下ろすと、教室中から拍手が巻き起こった。
「スッゲー! 赤城君!」
(確かに今のはファインプレーだな!)
「わがぁ言う…。」
ヤバッ!
「わがぁいう? 何?」
(わがぁいう? 何?)
「いや、今のは別に…。」
(なんだよぉ〜。教えろよ〜ん。)
うざっ…。
昭和女子の言う、ファインプレーのおかげで、クラスに馴染めた俺。放課後の掃除の時も、クラスの男子のみならず、女子とも会話ができるようになった。
多少の佐賀弁はつっこまれたが…。
そして、当番の体育館の掃除が終わり、教室に戻ると、井本さんが帰る支度をしていた。今日は委員会の集会があったようだ。
昼休みの一件以来、何となく話しづらい。こう言う時に限って昭和女子は現れない。
気まづい…。
「赤城君も帰り?」
「うん。体育館の掃除がやっと終わって。」
なんか言わないと!
「井本さんって、どこまで帰るの?」
「え? 赤城君と同じ多摩センターだよ?」
えっ? て何?
「それじゃ、一緒に帰らない?」
「うん。」
まったく昭和女子。何でこう言う時に出てこないんだ?
🚃
モノレールに乗る2人。
相変わらず話す事もなく、出入り口の両サイドで向かい合う。
女子との会話ってどうすんだ?
ネコ動画?
そんなの見た事ないからわかんねーし!
音楽かな? アリアナ・グランデ好きかな?
「あの、赤城君。」
「は、はい。」
ヤバ、キョドった。
「私、赤城君と同じマンションなんだよ。てか、隣なんだけど…。」
マジか?
「そうだったの!?」
井本さんは軽くため息をついたように見える。
「ごめん。わからなかった。」
「あっ別にそう言う意味じゃなくて、何回か一緒にエレベーターに乗ったのに、教室ではあまり話さないからさ。嫌われているのかな? とか思っちゃって…。」
「そんな…。俺、たまに方言が出るから、あまり話さないって言うか…。気を悪くしていたらごめん。」
「全然、気にしないで。そう言えば、クラスミって何?」
あれ? そんなこと言ったけ?
「えっと、明るくないところ? 夕方とか、灯りをつけっか迷う時間帯とかの。」
「薄暗いとか?」
「うーん。ちょっと違うけど。えっと…。あぁ、部屋で本を読んでっとさ、暗すみで何ししょっと? って言われるでしょ?」
「あはは! そう言うことか!」
良かった。
話ができた。
井本さん、笑うと可愛いな。
モノレールを降り、改札を抜ける。
いつもは1人なのに、今日は2人。しかも女子だ! 初めてだ。
「今日は少し遅い時間だけど、赤城君がいるから公園の中を抜られる。」
「え?公園を抜けて、帰れるの?」
「知らなかったの? 10分くらい違うよ? でも5時を過ぎると、ちょっと怖いからね、暗すみで。」
「使用法が間違ってますので、落第です。」
「使ってみたかったの。えへへ。」
そんな話をしていると、前方から車椅子を押す女性が。
「あっ、
井本さんはそう叫ぶと、その女性のところに走り寄った。
「こんにちは万理ママ。」
「こんにちは香織ちゃん。後ろの子は?もしかして彼氏?」
あれ? 何だろ? ものすごい邪悪な霊気が…。
「井本家と杉山家の
「あらぁ赤城さんの? 同い年だったの? こんにちは純君。隣の杉山です。この子は万理。あなたと同い年よ。」
「初めまして。すみません、ご挨拶に伺った時にお会いしなかったので、わかりませんでした。」
万理さんは麦わら帽子を被り下を向いている。
万理さんからなのか? 信じられないくらいの邪悪な霊気が溢れ出ている。
あっ! 僕の守護霊が…。
「こんにちは万理さん。赤城 純です。」
俺が挨拶をしても、万理さんは微動だにしない。
まあ、すぐには無理か…。
「ごめんなさいね。この子、山で事故にあって。ショックで動けなくなってしまって…。」
「そうでしたか…。」
ここら辺だと、あの山だな?
「それじゃ、またね万理。」
井本さんが挨拶をし、俺も頭を下げる。
俺たちが万理さんの横を通り過ぎようとした時に、かぼそい声が聞こえた。
「待って…。」
その声に反応する3人。
万理さん早っ! もう話せるのか?
「純君…。」
万理さんが僕の名前を呼んだ。
「万理?」
驚く、万理ママと井本さん。
井本さんが万理さんの麦わら帽子をとる。
車椅子に座る万理さんを見て、俺は叫んでしまった。
「昭和女子!?」
「…ひどいよ…。私の事を…そう呼んで…いたんだね? 純君は…。」
万理さんは息を切らしながら、一生懸命に俺に話しかける。
幽体離脱?
幽霊じゃなかったのか。
驚きすぎて、言葉を失う井本さんと万理ママ。
「ひどいって、どっちがだよ。入試の時から俺の邪魔ばっかりして。」
「ふふふ…。純君なら…私を助けて…くれると思って…。ね…。」
今まで、息をするのも苦しかっただろうに…。
「万理!」そう言って万理ママは万里さんを抱きしめている。井本さんも同じだ。
「ずいぶん厄介なのが憑いていたんだね。でも、もう大丈夫だよ。僕の守護霊が浄化させたから。」
「ありがとう…。ありがとう…純君…。私は純君に…。どうやって…お礼をすれば…良いかな…。」
「そんなの…。今ならまだ間に合うから、同じ学校に入学してほしい。それで話し相手になってほしいかな。」
「そんな事で…良いのかい? 純君の…彼女に…なってあげても…良いんだけど…。 」
「あっ! それはダメ!」
井本さんは真剣な眼差しで、万里さんに言った。
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