第6話 I gotta chance.
片岡
その気になるその人とは同じクラス。
でも、その人はいつも1人…。
休み時間は読書をしている。
ハッキリ言って、クラスで浮いている。
長い前髪で、顔を隠している。
整った綺麗なその顔を 他人にバレないように…。
でもね、私にはバレているんだよ…。
貴女のことが、気になって仕方がないの…。
🚌
今日は雨。
雨は私を元気にする。
普段の私はチャリ通。あっ、自転車での通学ってことね。でも、雨だとバス通になる。
それが嬉しいのだ。雨だと嬉しいのだ。私の大好きな人と一緒に通学できる。
次。
次のバス停だ。
いた!
バスが停車する。
そして扉が開くと彼女は乗車する。
「リオ、おはよう!」
私の挨拶に、ニコッとしてくれるリオ。
彼女の名前は 斉木
「おはよう。すごい雨だね。」
「うん。さすがに今日はチャリ通は断念…。」
霧雨でも断念するけどね。
「試合、いよいよだね。」
「うん…。あのさ…。」
「何?」
「日曜日なんだけどさ…。予定とか無かったら、リオに見に来てもらいたいな…。な、なぁんてね! あはは!」
「うん。見にいくね。」
はぁ〜!?
「本当?」
「うん。美梨が頑張っているところ見たい。」
「いゃったー! がんばるよ! リオ、絶対だよ! 絶対に見にきてよ!」
「う、うん。美梨…。大声出したら、他の人に迷惑だよ…。」
大声出すのは当たり前だっちゅーの!
🏫
雨の日の下駄箱は大混雑。
傘をバサバサする者と、合羽をバサバサする者で芋洗い状態だ。そんな中…。
「きゃ…。」
消え入るような小声で叫ぶリオ。
「どしたリオ!」
「べ、別に大丈夫だよ。」
「傘の水滴が顔に撥ねたじゃん! どいつだ!」
「美梨、大丈夫だよ…。大丈夫だから。」
私の袖をつまみながら言うリオ。
「ふん! まったく! 早く行こう!」
ヤバい。今のはちょっと、やり過ぎたかな…。
「美梨、先に教室に行っていいよ。私は2年の教室に寄ってから行くね。」
はぁ? 2年?
「な、なんで? どうしたの?」
「生徒会の書類。記述が多すぎて、みんなで手分けしたの。昨日のうちに終わらせたから、書紀の先輩に持っていこうと思って。」
「そう…なんだ…。その書記って男子?」
「うん。」
「私も付き合うよ。ササっと渡しに行っちゃおう! おー!」
「あはは! 美梨どうしたの? ね美梨、そっちじゃ無いよ!」
リオが男子のところに行くなんて嫌だ。生徒会の仕事でも嫌なんだ…。私はリオの手を引き、足早に階段を上がった。
昼休み…。
「ねぇリオ。今日は見に来てくれる?」
「ごめん…。今日は私が夕飯の当番だから…。」
リオは母親と2人で暮らしているからな…。
「そうかぁ…。お母さん、今日は遅番かぁ…。」
「うん。ごめんね。」
「いいよ。その代わり、日曜日はちゃんと見に来てよ。」
「了解しました。」
「でもさぁ。いつも思うんだけど、リオもリオのお母さんも美人だよね。」
ヤバ! 何を言っちゃてんだ私は!
「ふふ。ありがとう。でも私よりも美梨の方が美人だよ。って言うか美梨は
え? マジか!?
「本当? じゃあ私達、付き合っちゃおうか!」
「あはは。そうだね。」
ありゃりゃ…。かる〜く流された…。 撃沈っす…。
☀️
日曜日…。
やった!リオが来てくれた!
リオが私を見てくれている。
スリーポイントも4発入れた。
後半もこの調子で行かなきゃ。
「片岡。調子いいじゃん。彼氏が見に来ているの?」
「部長、私には彼氏なんていないですよ。友達が見に来てくれているんです。みっともない所を見せられませんからね。」
「もう充分見せられた? 」
「えへへ。まあまあですかね。でもそれとは別に、相手の高校にもっと、うちの高校がすごい所を見せないと。」
あれ? 部長どした? 困った顔をしているけど?
「あのさ。悪いんだけど、後半は下がってもらえるかな? 正直さ、片岡がここまで出来るとは思わなかったんだ。新人戦の前に、片岡を他校に見せたくないんだよ。」
そんな…。リオが来ているのに…。リオはまだ来たばかりだよ。10分も見てくれていないのに…。
「部長、せめてあと5分だけでもダメですか?」
「部長に指示をしたのは私だ。文句があるなら帰れ。」
監督が声を荒げて私に言う。
監督かよ…。
「片岡…。今日は片付けとかいいから、帰りな…。その方が体調不良って事にもなるし。ね?」
ふざけんなよ…。リオになんて言えばいいんだよ…。
「片岡。ね?」
「わかりました。お疲れっした…。」
荷物を持ち、体育館を出る私…。
更衣室に行き、着替えるていると、ホイッスルが聞こえる。
後半のスタートだ…。
悔しい…。
リオ…。
私は渋々、制服に着替え終え、ロッカーを出る。するとリオが立っている。そして笑顔で私を見ている。
「美梨、お疲れ様。カッコ良かったよ。」
リオの一言で、私の溜め込んでいたものが溢れ出した。
「ごめんリオ。見に来て!って言ったのに、あまり見せられなかった…。」
馬鹿みたいだ。涙が止まらない…。
「なんで? 泣かないで美梨。どうしたの? 最初から見ていたけど、美梨は凄かったよ? 相手のボールをパシンって奪ったり、遠くから4回もシュートを決めていたじゃない。カッコよかったよ!」
「えっ?」
「ん?」
「最初からいたの?」
「いたよ。最初はね。相手チームの方にいたの。どっちが、うちの高校かわからなくて。」
「なんだぁ…。いたのかぁ…。」
よかった。でも、もっと見てもらいたかったな…。
「後半は出ちゃダメって言われたんでしょ?」
「え? うん。」
「相手の高校ね、美梨の動きをビデオで撮影していたよ。新人戦が近いから当然だよね。美梨はすごいなぁ。」
そうだったんだ…。リオ、最初からいたんだ…。
「ねえリオ。今から一緒にお昼に行かない?」
「うん。お母さんもいるけどいい?」
「うん、オケオケ。」
リオのお母さんか。写真でしか見た事ないけど、リオに似てスッゲー美人だよな…。でも。母親の写真を持ち歩くって、リオはお母さん大好きっ子なんだな。
校門を出ると、一台の車が止まっている。小さくて可愛い車だな。コーパー? 外車かな?
(美梨が見たのは Cooper の文字。)
すると運転席から女性が降りてきた。
「お母さん!」
リオはそう言って、母親に駆け寄り抱きつく。
リオ? すごいな…。
「初めまして。里緒奈の母です。あなたが美梨さんかしら?」
ヤッバ! 品のある女性って、こう言う人の事を言うんだな!
「は、はい! 初めまして、 同じクラスの片岡 美梨です!」
美人すぎてクラっと来そう…。
「ねぇねぇ。美梨も一緒にお昼してもいいでしょ?」
「あらぁ。それなら2人で行ってきなさい。お母さんがいると気を使うでしょ?」
「いえ! そんな事ないです! 良かったらご一緒したいです。」
心にもない事を言ってしまった…。
「ほらぁ。お母さんも!」
リオはお母さんに抱きついたまま、お母さんの胸に顔を
てか、リオ? どうしたの?
あれ? 親子って、そんな感じだっけ?
私がおかしいの?
私、お母さんにそんなに近づいた事なんてないな。
「ちょっと里緒奈。美梨ちゃんが見てるよ?」
「美梨はこのくらいじゃ笑わないもん。ね?」
「あはは…。あっ! ごめんリオ! 私、用事があったんだ!」
「そうなの?」
なんでリオ? もっと残念がってよ…。
「うん。部長に待っているように言われたのを忘れてた。ごめんね。」
「そっか…。 うん、わかった。それじゃまた明日ね。お疲れ様。」
リオ…。
「うん。今日はありがとう! また明日ね!」
リオのお母さんにも頭を下げ、私はその場を走り去る。
何なの?
お母さんでしょ?
自分の母親だよ?
あんなのって、恋人同士みたいじゃん!
意味がわからないよ…。
リオ…。
🏠
「ただいま。」
自宅に帰る私
「あら? あらら? どした? 試合は?」
何その口調。
待て!
これが世間で言う、お母さんだよな。
「違うのは属性か? お母さんは何属性?」
「属性?」
「うん。属性。」
首を
「何だかわからないけど、試合は? 友達とどっか行くんじゃなかったの?」
「試合は前半だけで帰らされた。相手の高校が私の事をビデオで撮影していたんだってさ。」
「はぁ?盗撮かい?」
「新人戦の前だから、私をマークしていたんだってさ。体調不良で早退って事にされた。」
「スッゲーじゃん美梨!」
低い声…。
太いウエスト…。
二重アゴ…。
この人が私のお母さん。
俗に言う、世間一般的なお母さんだ。
なのに、リオのお母さんは違う。リオのために、素敵なお母さんを演じているみたい。
リオもそう。お母さんのために一生懸命に頑張っている。
本当に…。
恋人同士だ…。
🏫
月曜日。
今日は快晴のためチャリ通。昨夜は色々と悩み、そして考えてしまい、熟睡はできなかった。
教室に入り、みんなに挨拶をする。「おはよう!」と言う私の声に気が付くリオ。のはずが、今日は振り向いてくれない。
どうしたのかな?
私が近づくと、席を立つリオ。そして足早に教室を出て行ってしまった。
「ちょっ待ってよ…。」って私はキムタクか!?
私も急いでリオの後を追いかける。
「リオ!」
振り向いてくれない…。
階段を駆け上がり、最上階にたどり着く。
屋上への出入口は、昼休み以外は施錠してある。
ガタガタと引き違いの扉を左右に動かすリオ。
「リオ、どうしたの? 何で逃げるの?」
リオは私の声で振り返り、私を見た瞬間に座り込んでしまった。
「ごめんなさい!」
「え? 何が?」
てかリオ? パンツ見えているんだけど!? ラッキーなんだけど!! って、違う! 今はそれどころでは無い! でも見たい! リオが顔を伏せている今なら…。
「美梨、ごめんなさい…。って? ちょっと、何を見ているの?」
「リオのパン…。あ…。」
沈黙が流れる…。
「美梨のエッチ…。」
リオは立てた膝を床に伏せ、下を向きながら言った。
「うぉー!! こりゃ辛抱たまらん! リオ、抱きしめさせてくれ! いや!抱きしめるぞ!いいね!」
「ちょっ? 美梨?」
あぁリオ、大好きだ!
「ちょっと? 美梨? どうしたの? 先に謝らせて。」
「いいよ。リオは何も悪くない…。もう少し抱きしめさせて…。」
「でも。昨日の美梨、変だったよ? 多分、私が嫌な思いをさせちゃったんだと思って…。」
「いいよ、気にしないで。気にしないでいいんだよ。」
「美梨? 喋り方が…。気持ち悪いよ…。」
「えへへ。私は変態だからね。あぁリオ。いい匂い…。」
「あはは! 本物の変態だ。あはは!」
5分前の予鈴。
徐々に静まり返る校内。
「ねぇリオ。」
「何?」
「私ね、負けられない事があるの。」
「ねえ美梨。先生が来ちゃうよ?」
「うん、もう少し。」
「美梨?」
「私。リオのお母さんには負けないから。」
「うーん。意味がわからないけど、応援するね。」
もう…。リオってば…。
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