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家から車で三十分ほど。市を超えてしばらく行ったところに、海は見えてくる。小さいころ両親に何度も連れて行ってもらったけど、一人、それも自転車で行くのなんて、生まれて初めてだ。久しぶりだし、不安はあったけれど、何回も通った道を僕は忘れていなかった。
学校から出発してしばらくすると、学生の姿なんてどこにも見えなくなった。振り返らないようにしながら、ただただ、何も考えずにペダルを踏む。音楽は流れ続けている。
海が近付くにつれて、空は青さを増していくように感じた。国道に出た瞬間、風が強くなって、髪の毛が暴れた。
iPodから流れる曲。その曲が終わって、次の曲に移るまでのわずかな間。考えないようにしていたのに、考えてしまった。
何をしているんだろう。
手をブレーキに置いて、止まってみようかと、ためらう。直感的に、駄目だと思った。止まったら、もう進めない気がした。振り払うように、一層強くペダルを踏み込んで加速する。速く。急げ。
僕は今にも泣きだしそうだった。
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