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何を期待していたんだろう。机に積まれた大量のCDを前に、僕は考える。外では、台風が直撃した日曜日、僕は一歩も家から出ることなく、ほとんどこうやって机に向かって座っていた。外はごうごうと、威勢のいい風が吹いては、窓に散弾みたいな雨をぶつけてくる。高揚は、していない。
昨日梶原の家から帰る時、姉ちゃんは僕に自分の持っているCDを全部くれた。もう会わないって言われるより辛かった。
「就職試験のために帰ってきてるんだ。銀行と食品会社のね。今度、公務員試験も受けようと思ってるの」
何度も何度も、昨日の、三年越しの姉ちゃんの言葉を思い返す。その度、三年前に言われた言葉が、嫌が応にもその影にちらつく。
「私、シンガーソングライターになりたいんだよね」
ショックだったけど、きっと仕事をしながら、その合間に時間を作って頑張るんだと思っていた。でも、帰りに、CDを渡された。
「これももう、いらないからあげるね。邪魔だったら捨ててもいいから」
適当な紙袋に入れられた、さまざまなアーティストのCD。死体がぐちゃぐちゃになって詰まってるみたいだった。何も言わずに受け取って、家を出た。姉ちゃんはバイバイと手を振った。彼女は、夢を諦めたんだと、思い知った。
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