31


 何を期待していたんだろう。机に積まれた大量のCDを前に、僕は考える。外では、台風が直撃した日曜日、僕は一歩も家から出ることなく、ほとんどこうやって机に向かって座っていた。外はごうごうと、威勢のいい風が吹いては、窓に散弾みたいな雨をぶつけてくる。高揚は、していない。

 昨日梶原の家から帰る時、姉ちゃんは僕に自分の持っているCDを全部くれた。もう会わないって言われるより辛かった。

「就職試験のために帰ってきてるんだ。銀行と食品会社のね。今度、公務員試験も受けようと思ってるの」

 何度も何度も、昨日の、三年越しの姉ちゃんの言葉を思い返す。その度、三年前に言われた言葉が、嫌が応にもその影にちらつく。

「私、シンガーソングライターになりたいんだよね」

 ショックだったけど、きっと仕事をしながら、その合間に時間を作って頑張るんだと思っていた。でも、帰りに、CDを渡された。

「これももう、いらないからあげるね。邪魔だったら捨ててもいいから」

 適当な紙袋に入れられた、さまざまなアーティストのCD。死体がぐちゃぐちゃになって詰まってるみたいだった。何も言わずに受け取って、家を出た。姉ちゃんはバイバイと手を振った。彼女は、夢を諦めたんだと、思い知った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る