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 姉ちゃんが地元を離れる前の日、姉ちゃんは僕と梶原をカラオケに連れて行ってくれた。CDを聴いて覚えたての曲を歌うと、姉ちゃんは上手いじゃん、と拍手をしてくれた。しばらく僕と梶原だけが歌って、姉ちゃんはずっとそれを聴いていた。二人でずっと歌い合っていると、一時間もすると疲れてしまう。梶原がアジカンの曲を歌っている時、僕は姉ちゃんに声をかけた。

「姉ちゃんは、なんで歌わないの? 姉ちゃんも歌いなよ」

「私は歌が上手いからね。君らのような未来ある若者が、それで自信をなくしたら申し訳ないんだよ」

「音痴なだけなんでしょ?」

「……よし、後悔させてやる」

 そう言うと、姉ちゃんはその日初めてリモコンを操作して、曲を予約した。バンプオブチキンの、バトルクライ。僕が、一番好きな曲だ。

 初めに思ったのは、女の人なのに。全然、声は違うのに。声の張り、音の伸び方、力強さ、何から何まで、僕や梶原とは格が違った。

 誰かの歌声で鳥肌が立ったのは、サンボマスターに続いて二度目だった。

 歌い終わって、僕も梶原もリアクションが取れずにいると、姉ちゃんは困ったように、恥ずかしそうに、「上手かったでしょ?」と笑った。

 じゃんけんで負けた梶原がソフトドリンクを取りに行ってる間に、姉ちゃんは僕にこっそりと言った。

「私、シンガーソングライターになりたいんだよね。誰にも言ってないけど。応援してくれる?」

「もちろん。姉ちゃんなら、なれると思う」


 次の日、姉ちゃんは飛行機で旅立った。それ以来、僕は姉ちゃんと会ってない。連絡も取ってない。梶原からたまに近況を聞くだけ。


   *


 姉ちゃんが帰ってくる。


 いろんな音楽を知った。ほんの少しはロックを語れるようになった。高野先生っていう、面白い人にも出会った。まだ興味があるんだ。もっと、いろんな音楽を教えて欲しい。カッコいい音楽を。面白い音楽を。

 僕は「バトルクライ」を聞きながら、放課後が待ち遠しくてしょうがなかった。早く、姉ちゃんと話がしたい。

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