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好きな芸能人は、長瀬智也と、窪塚洋介だ。完全に、池袋ウエストゲートパークの影響だけど。
中学生の僕にとって、カッコいいってのは、顔であって、スタイルであって、運動神経であって、ユーモアであって。それらを全部持っている人間を、僕はカッコいいと思っていた。
ステージに立って、始まる前から汗をかいて、だみだみな声で来て下さってありがとうなんて言う、太った眼鏡のおっさんは、ギターを鳴らした瞬間、僕の価値観をぶち壊した。
「どうもはじめまして。サンボマスターです。えー、今は初の全国ツアーをさせていただいている最中でして。この町で演奏をするのは初めてなわけです。僕たちはまだまだ駆け出しのロックバンドで。まあ、その……聴いて下さい。『愛しき日々』!」
全身の毛穴が開くかと思った。他の観客があっけにとられながらステージを見つめる。多分、サンボマスターのことなんか知らなかったんだろう。父親が興奮を隠そうともせず、腕を振り上げて言葉にならない何かを叫ぶ。
「僕は、みなさんに会えて幸せなわけですよ! その気持ちを伝えたいわけですよ! でも言葉にできないから、僕はギターを鳴らすわけですよ! オウイエイ!」
愛しき日々、夜汽車でやってきたあいつ、残像の三曲を、一息に歌い上げる。そのころにはもう、他の客も興奮した顔で、腕を振り上げながら飛び跳ねたりしていた。
ラストの曲は、そのぬくもりに用がある、だった。前半の語り部分を、僕ら観客にあてたメッセージにアレンジして、曲が始まった。
盛り上げて、ギターを掻きならして、しっとり落として。
すべてを忘れて、ただただ、音楽のために生きる男、なんて。
*
「いいじゃん。あんたらいいよ。カッコいいよ。頑張ってね」
演奏終了後、低くて狭い、小さなステージの上、汗だくになって肩で息をするボーカルに、一番前で聴いていた高校生くらいの兄ちゃんが、大げさな拍手をしながら感心したように、とても上から目線で、言った。
「あ、ありがとうございます。頑張ります」
頭を下げてそれに応えるボーカルを見て、父親は楽しそうに笑っていた。
「声かけなくていいの?」
そろそろ帰るか、と話す父親に、ドキドキしながら、あの人と話せるのかな、なんて思いながら、父親に声をかけた。
「いや、いいや。ああ、面白かった」
こういう時の、父親の気持ちを、僕は何となくわかる。ミーハーに、なりたくないんだ。僕のお父さんは、カッコつけで、カッコいいから。
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