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そのライブハウスは、地元の繁華街のちょっと離れたところにあった。小さなところだけど、歴史はあるから、けっこう有名なアーティストもツアーで来たりする。バンプもアジカンも、何度か来ている。
「どうせ、若い高校生とかしかいねえんだよなあ。なんか、俺みたいなおっさんが一人で行くの、恥ずかしいじゃん? でもお前がいれば、お前の付き添いみたいな感じでいけるし」
途中、父親はそんなことを言って頭を掻いた。僕はお気に入りの白いパーカーのポケットに手を入れて、その後ろをついて歩いた。
チケットを買ってライブハウスの中に入ると、父親にジンジャエールの入ったプラコップを渡された。まばらな客は、ほとんど高校生か大学生くらいに見えた。僕と父親はなんとなく居心地がわるくて、二階のテラスみたいなところに逃げるように向かった。
しばらくして、小さなステージの上に男の人が一人出て、今日の出演バンドの名前を読み上げる。どのバンドの名前も聞いたことが無かったけれど、最後に、「そしてサンボマスター」と言ったのだけはわかった。
それからいろいろなバンドが演奏を始めた。コピーバンド。ボーカルがサックスを吹くバンド。声が全然聞こえないバンド。MCで帰りたいと言い出すバンド。
僕と父親以外の客は、だいたいつまらなそうな顔をしてその演奏を聴いているか、誰かと話しているかのどっちかだ。たまに、友達のバンドが出たりすると、前の方でヤジのような激励を飛ばしたりする。
心臓に直接打ち付けてくるようなドラムの音や、耳に痛いギターの音も、一組目のバンドが終わるころには慣れた。
僕は立っているのも疲れてきて、手すりにだらしなく体を預けながら、飲み終わったジンジャエールのカップの中、氷が解けるのを、ぼんやりと見つめていた。父親も、手の中で空になったカップを暇そうにいじっている。
「実は今日で、僕たち解散します。受験勉強に専念しなきゃいけないんで。最後の演奏、聴いて下さい」
高校生バンドだろう。ボーカルのそんなMCに、僕たちを含めた客は、一人も残念そうな顔をしない。色の抜けた長い前髪をなでつけながら、その男の人は、苦笑を浮かべて、ドラムに合図を送った。
思い出深い彼らの最後の演奏は、バンプオブチキンの天体観測だった。他人のフンドシでなんたら。
おざなりな拍手をうけて、そのバンドは暗転したステージの闇に消えた。
数分後、そのステージに、最初に出てきた男がまた立って、告げる。
「次は、本日のメインイベント。サンボマスターです」
父親に声をかける。
「下おりる?」
「いや、ここでいい」
父親の口元にはにやりとした笑みが浮かんでいた。
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