12
最近、僕は日が暮れて、晩ごはんを食べた後によく散歩をする。テキトーな格好で、行くあてもなく。音楽に合わせて、ふらりふらりと頭をゆらしながら。
頭の中がカラッポになる。耳から入ってくる曲が、脳ミソの無くなった僕の頭の中で反響して飛び跳ねてから、全身に染み込む。
夜八時。梶原には、今日は塾に行けなくなったとメールを送った。わかった、と、一言つまらなそうな返信があった。
今日は、河原沿い、土手の上を、のんびりと歩いていた。まっすぐ、わき目もふらず。
今、流れているのは、誰の曲だろう。バンプのような気もするし、ピロウズのような気もするし、バックホーンのような気もする。
音楽に救ってもらいたいなんて思わない。わかってもらいたいとも、共感したいとも思わない。ただ、鬱々とした気持ちをごまかして欲しい。それだけ。
まっすぐ歩いていると、学校のそばまできた。放課後、樋口から言われた言葉を思い出す。
お前がやる気の無い生徒だってことは、この三年間で俺もよく知ってる。だけどな、ケジメをつけろ。将来、後悔するのはお前だぞ? 俺ももうこんなことは言いたくないんだよ……。
受験まであと何カ月だ? お前の第一志望はどこだ? そんなくだらない大学に、本気で行く気か? ちょっとは頑張って、もう少し上の大学に行こうとか考えろよ。それか、一番でその大学に入るとか……。とにかくもっとモチベーションを上げろ。目標を高く持て。
人生なんてくっだらねえさと、がらがらの声で男が叫ぶのを聴きながら、僕も、くっだらねえさとつぶやいた。
生徒が真剣に行きたがっている大学を、偏差値だけを見て、くだらないと言いきってしまうその浅はかさ。一番になれと、とにかく周りと同じように勉強をさせて、統一感を大切にしようという気持ちを、僕は理解できない。したくもなかった。
知ったこっちゃないと口にしたその声は、イヤホンで塞がった耳から僕の頭にはよく響いたけど、僕以外に誰もいない河原を吹き抜けた風が、草のにおいと一緒に持ち去ってしまった。どうせならもやもやとした気持ちも持って行ってくれればよかったのに。
さようなら。
学校に背中を向けて、来た道を戻る。決別はできない。明日がくるから。
また明日。
その夜、桜庭一樹の本を読んでいたけれど、集中できなくて、僕はやきもきして、たっぷり時間をかけて三回オナニーをしてから、明け方に寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます