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教室に戻ろうとしたところで、廊下に、頭一つ飛び出した奴を見つけた。
「梶原」
後ろ姿に声をかけると、その大きな背中がこっちを振り向いて、僕に気づくと、手をあげて近づいてきた。目の前までくると、それなりに身長が高い僕と比べても、そいつは見上げるほど大きかった。
梶原は中学からの同級生で、同じ塾に通い、同じ高校に進学した友達だ。高校に入って初めのころは、一緒に待ち合わせをして登校したりしていたけど、僕が遅刻をするようになって、それは無くなった。
ガタイがよく、中学では柔道をやっていたのに、高校になってからは何もしていない。でも、今でも筋トレは続けているみたいで、やたらと引き締まった体をしている。
「よう」
「でたでた」
口に出して苦笑すると、梶原がなんだ? と訊いてきた。
「どうせまた、変なこと考えてたんだろ」
呆れながら、茶化すようにそう言う梶原に、さっき思ったことを話してみる。話し終わると、梶原は僕を見下ろしながら、くだらねえと鼻で笑った。
「ただのコミュニケーションの一つだよ。深く考えんな」
「そういうもん?」
「そういうもんだ」
僕はふむと俯いて、じゃあまあそういうもんかと、納得した。その上で、梶原はふっと息をついて言った。
「それより今日、塾行くだろ?」
「うん。お前も?」
「ああ。じゃあ、また夜にな」
「あいよ。じゃあね」
軽く手をふって、自分のクラスへ戻っていく梶原をぼんやり見送ってから、僕も自分の教室に戻った。
次の授業は、何だったか。まあ、ダルイことに変わりはない。広い廊下でついた軽めのため息は、受験前の少し重い学校の空気の中に紛れて消えた。
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