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 よく、女子トイレは女の子が化粧をしたり、身だしなみを整えたりすると聞く。実際入ったことは無いから知らないけど、でも、男子トイレもあんまり変わらないなあ、なんて。

 扉を開けた瞬間、いろんな種類のワックスの甘い香りが、僕の鼻をどろどろに溶かすような気がする。鏡の前に並び、ワックスを手に取り、目の前にいる自分を覗き込むようにして髪を立たせる三人の男子高校生を見て、僕は軽い吐き気に見舞われた。気持ち悪い。

 彼らの後ろを通って、佐藤が小便器の方に向かった。僕は洗面スペースに立って、荒金を待っていると、嫌でもその三人の話声が耳に入ってきた。

「っつーかさ、森下さん、マジ可愛くねえ?」

「ああ、二組の?」

「そう、森下愛華。あー、ヤりてえ」

「うっわ、最低だな、お前。でも、ぶっちゃけそんなことも言ってられなくなるだろ。もうすぐ受験だし。大学違ったら別れるっしょ?」

「いやあ、だから、その前に一回ヤリたいわけよ」

「死ねよ」

 笑いあって話しながら、相手の顔は全く見ない。そいつらが鏡の向うで下品に笑う自分の顔を、どんな気持ちで見ているのか、僕にはさっぱりわからない。どんどん気分が悪くなってくるけど、佐藤はまだ帰って来ない。

 三人のうちの一人が油取り紙を取りだして顔をなでつけ始めた辺りで、耐えられなくなってしまった僕は、佐藤を残してトイレを出た。油取り紙って。顔面の油は拭き取るのに、頭には油を塗りたくるのか。意味わかんねえ。

 廊下の空気が、びっくりするくらい新鮮に感じられた。ほっと、息をついていると、また声をかけられるんだ。

 YO、OH、なんて。どこのハイスクールだよ。

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