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「なあ、トイレいこうぜ」

 一時間目が終わった、休み時間。クラスメイトの佐藤が声をかけてきた。こいつは一日になんども僕をトイレに誘う。そのたび僕はうんざりした顔で応える。

「トイレくらい一人で行けよ」

「いいじゃん、なあ、一緒行こうぜ」

「気持ち悪いなあ」

 むくれて僕の腕をつかむ佐藤の手を払いながら、しぶしぶ席を立った。

 二人して教室を出ると、廊下にいた隣りのクラスの奴に、よう、と声をかけられた。手をあげて応える。おう。

 よう。おう。ただ、それだけ。そんなやりとりが、トイレに着くまでに何度も繰り返される。なんだ、これは? と疑問に思う。よう。おう。その一言ずつだけで、何を僕たちは理解しあった気になってんだ。これは挨拶か? いやいや挨拶にしたって適当すぎるだろう。

 横にいる佐藤にそのことを話すと、首を傾げられた。僕もまた、首をかしげた。するとまた、他のやつに声をかけられる。

 よう。おう。

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