"おにぎり"と"てがかり"
『ただの米の
(……そういうこと、か)
そう難しいことでもない。
彼が手渡した食べ物は
(ったく、そんなもんでお前らみてえな奴を殺せるわけねえだろ)
あるいは毒などを含めれば可能かもしれないが、普通に考えて誰も自らが口にする食べ物に毒を盛ろうとはしないだろう。
とはいえ、握り飯とおにぎり。単なる言い回しの違いくらいで深読みしてしまうのは、いくらなんでも天然すぎる。
衛実は、目の前で必死に頭を動かしているであろう彼女の姿に
「別に死にやしねえよ。いいからさっさと、それでも
「……のう衛実、本当にこれしかないのか? 他に何か食べられるものは?」
「
それでもやはり、朱音は中々その食べ物を口にしようとはしない。『腹は減ってはいるが、これは本当に食べても大丈夫なのだろうか?』そんな心の声が聞こえてくるかのようである。
だが、どうやら
おにぎりを受け取ってからそこそこ長い時が
「………………ッ!
"それ"は、鬼の少女にとって、まるで
ギッチリと、
そのまま食べ進めてゆくと、今度は米とはまた別の食材が顔を
"
先程まで感じていた不吉な予感は
そんな彼女を見て、衛実は『やれやれ』と呆れた表情をみせる。
「さっきからそう言ってんだろうが。それともなんだ? お前はこんな食い
彼の問いに、朱音はむしゃむしゃとおにぎりを
「わらわの所では、米は祝い事などでしか食べることが出来ぬ貴重な
よほど気に入ったのだろう。それから
「まことに
満足そうな表情を浮かべ、手の平くらいの大きさの布で口元を
「それで少しは腹の足しになったか? ならもういい加減、ここを出るぞ。俺たちを追ってた奴らも、もういねえだろうしな」
そう言って部屋を出ていこうと脚を踏み出す衛実を朱音が呼び止めた。
「待つのじゃ、衛実」
「なんだ、まだ食べ足りねえのか? 悪いが、もう食い
首だけを動かして返事をした衛実に向けて、朱音は姿勢を正し直し、ゆっくりとよく言いきかせるかのように話を切り出した。
「そうではない。最後にもうひとつ、これで本当に最後じゃ。どうしてもぬしに聞かねばならぬことがある」
その
「……お前の耳には、一体何が聞こえてたんだ? さっきも言ったろ。お前に話すことは何も無え、ってな」
冷たく突き放して屋敷を出ていこうとする衛実。そんな彼に朱音はしがみついて、必死に言い
「頼む! どうしてもじゃ! これだけは、何としてでも聞いておきたかった事なのじゃ」
「
「聞き出せることがそこまで少なかったとは思わなかったのじゃ。わらわはもっと話をしてくれると、」
「なんにせよ、俺の知ったことじゃねえ。
ばっさり切り捨てられて
「…………仮に、わらわがぬしに
思いもよらぬ話が彼の耳に
「……どういうことだ?」
「ぬしにとって、わらわのような"鬼"は
「…………仮にそうだったとして、それでお前にどんな益のある話ができるってんだ?」
「分からぬ。じゃがそれでも、わらわに出来ることがあれば何でもしてやりたいと思うておる。その
もしかすれば、その中から何かぬしの力になれることが見つかるやもしれぬと、そう思うのじゃ」
朱音の言い分を聞き届けて、衛実は彼女から目線を切らないまま、心の
(さて、どうしたもんか……)
確かに、実際の"鬼"から話を聞ける機会というのは、そうそう
その上、これまでのやり取りの中で彼女が
とはいえ、
そんなこんなで、色々と
(……あれこれ考えても仕方ねえ。とりあえず聞くだけ聞く。そんで
「…………いいだろう。ならさっさと、その最後の質問とやらを話せ」
先程から
「ありがとうなのじゃ! であれば
「わらわがどうしても聞きたかったこと、それはぬしの左腰に
彼女が話の終わりに
「…………いつから気づいていた?」
「いつ? それは
(そりゃお前、普通に考えて、初めて会う奴の腰回りに目を向ける奴がいると思うかよ……)
「それに、その程度の大きさであれば、先程ぬしがおにぎりを取り出した袋の中に
それで衛実、その小袋の中には一体何が入っておるのか、教えてもらえぬか?」
(……
そんなことを考えながら衛実はしばらく
「……まあいいか。どうせ後で聞くつもりだったしな」
そのような言葉を口にすると、衛実は
やがてすぐに袋の中から何かの物体を取り出し、それを朱音に向けてヒョイ、っと投げて
「っ! っとと、」
『ふぅ、』と胸を
その手の中には、黒く
「衛実、これは一体……」
「そいつは、今の俺に
衛実に"手がかり"と呼ばれたその黒色の物体は、彼の説明に耳を
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