第6話 京の街 肆
仕事を終えて、弥助の店を後にした2人は、しばらく並んで京の街を
「先のこと、上手く
朱音が気づいていた事に関して、
「なんだ、やっぱし聞こえてたのか。
「気を悪くしたのであればすまぬ。じゃが同時に、わらわに気を使ってくれてありがとうなのじゃ」
「何、
素直に『鬼だ』とか言ったら、いくら
むしろ、お前は気を悪くしてないのか?」
「
(本当に、俺の目の前にいるこいつは、村を燃やしたアレと同じ生き物なのか……?)
そんな思いが一瞬だけ、頭の中をよぎる。しかし、それ以上の考えを
現実に意識を向けるように顔を上げた衛実は、その視界の右端に圧倒的な存在感を
「朱音、あれが
衛実の声掛けに気づいた朱音は、川に向けていた視線を彼が指差す方向へと移し、春先の青々とした山に、
「それは
「
「分かったのじゃ」
2人がそんな具合で
ぶつからないように道を開けた2人だったが、ふとすれ違いざま、男から
その臭いのあまりのきな
「衛実、今すれ違ったあの男から血の臭いがしなかったか?」
朱音の問いかけに、衛実も
「ああ、そうだな。もしかするとこっから先は少し危険かもしれん。今日はここいらにして、一旦、宿に戻るか?」
「そうじゃな。
そうして2人は、来た道を引き返して宿へと向かい始める。
その際、先の男が前にいたため、なるべく同じ道を歩かないように気を配っていたが、男から放たれる
やがて2人は弥助の店の近くの宿に着き、そこで泊まることにした。
何か
「衛実、ここの宿は弥助の店から近いが、何か
「ああ、そうだ。
明日、情報を集めるって話をさっきしたと思うが、その時は俺はいつも弥助から
衛実が言い放った弥助の意外な
「弥助は
「ああ。しかもすごく
もちろん、金を払うことにはなるが、その情報のおかげで後の仕事で役に立ったことが多かったし、出して損をすることはないと思うぞ」
そこまで言って、衛実は弥助の裏の職業についての話をし終えると、今度は先程の真面目な雰囲気と打って変わって、目を輝かせて実に楽しそうな顔をしながら、宿を選んだもう1つの理由を朱音に教える。
「あと、ここの宿は近くに飯を食う所が
そんな衛実を朱音は少し目を細めて、さながら
「なるほど。……実はぬし、そちらの理由の方が
「おお、よく分かったな朱音。その通りだよ」
むしろ『分かって当然』とでも言うような顔を衛実がするものだから、朱音は
「
「何言ってんだ、店の周りの
「……それもそうじゃな」
「よし、そうと決まりゃ、さっさと行こうぜ。今日はやけに腹が減ってるしな」
そうして、2人は宿に入って荷物を部屋に置いた後、飯を食べに行き、それぞれ身体を
だがしかし、ここで思いもよらない重大な問題が朱音に起こっていた。
「どうしたんだ、朱音。そんなにそわそわして」
先程から
「い、いやむしろ、なぜぬしは落ち着いておるのじゃ?」
そう言う朱音は、今も衛実と
「何が?」
「わ、わらわとて鬼とは言えど、女ぞ? 男と女が同じ部屋なぞ……、」
「は? 何言ってんだ。別に寝ることぐらい気にすることないだろ」
「じゃ、じゃが、」
「あと、そういうセリフは、もっとついてから言え」
衛実に言われたことが
「もっとついて? ………っ! 衛実! ぬしは!」
顔を真っ赤に
「な! 何すんだ痛ってえな。やめろ人の睡眠の邪魔をすんな!」
「うるさい! この失礼なやつめ! 許さんぞ!」
朱音は投げつけた枕を拾い上げ、今度はそれで衛実を殴りつける。
「うるせえ!いいからもう寝ろ!」
「はあ、はあ。こいつ、いちいちめんどくさいことで騒ぎやがって。
……しかも俺の
荒い息を整えた衛実は、自分の布団で眠っている朱音を彼女の布団に寝かしつけ、自身もようやく布団に入る。
「あ〜もう、ぐちゃぐちゃじゃねえか」
そこでふと朱音が
「……そう言えば、今はもう『変化の力』を
そして、朱音の初仕事の際に弥助が放った言葉が頭をよぎる。
「……『女の子には優しく』、か。
確かに、あいつに無理をさせ過ぎるのは良くない。明日は俺1人で調べに行くとしよう」
そんなことを
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